ＳＴＯＰ、銀行強盗！｜リアクション

ＳＴＯＰ、銀行強盗！

　ザ・ストレイトである風雲児は、相手が強敵だと肌で感じていた。

　ゴアラ男の筋肉は見せかけではない。
　身体を自在にコントロールするために。そして破壊的なパワーを発揮できるように、理にかなったトレーニングをして身につけた、実用的な筋肉だ。
　それは、ヒーローの動きを体現できるように日々訓練してきた風雲児だからこそ、見間違える訳がない事実だった。
　なればこそ、この戦いは苦しいものになる。その予感がある。
　
　指を鳴らす音が響いた瞬間に、身をかわす。
　漂っていた煙に穴が開き、なにかが肩をかすめていった。

「速いな。見てからじゃ間に合わない」

　神経を耳に集中させる。
　煙幕によって、自分も相手もお互いの姿を確認しにくい。だからこそ、敵の音を逃すわけにはいかなかった。特にろっこんの発動を促す音は。

　指を弾く音が聞こえたと同時に、身をかわしつつその方向へダッシュする。
　ゴアラ男の狙いは正確だ。だが、流石に本物の軍人ではないようで、行動予測した上で撃ってくることはない。
　煙に残る弾痕をもとに位置を予測し、黄金の林を盾にして、ザ・ストレイトはゴアラ男を追い詰めていく。

「やるな。ザ・ストレイト。だが、これはどうかな」

　今までとまったく違う風切り音が聞こえ、風雲児は直感に従って大きく飛び退った。
　灼けるような痛みが、左の二の腕に刻まれる。

「ナイフか」

　煙をまとわりつかせたゴアラ男が、コンバットナイフを構えていた。
　その姿は堂に入っていて、付け焼き刃ではないことを感じさせる。

「確かに接近戦では俺のろっこんは使いにくい。だが、本来はこっちのほうが得意でな」
「望むところ！」

　ボクシングスタイルで迎え撃つザ・ストレイト。
　対するゴアラ男は軍隊格闘技であるナイフ格闘術のようだ。

　まだ煙がたなびく黄金の林の中で、二人は激突した。

　軽やかなフットワークと素早い左ジャブでヒット・アンド・アウェイするザ・ストレイト。
　ゴアラ面の男は、ゆっくりと円を描くように足を運びながら、時折、ナイフを翻して牽制する。
　そんな互いの様子見は、ほんの数秒で終わった。
　風切る音が、鋭さを増す。
　
「おおおおお！」
「ぬぬぬ！」

　フットワークに鋭い踏み込みを織り交ぜ、ストレート繰り出すザ・ストレイトのラッシュを、左腕でさばき、流れるようにナイフを振るうゴアラ男。
　特別な防御力を持たないザ・ストレイトの衣装は、徐々に傷ついていく。

　しかし、ザ・ストレイトは退かない。

「お前、ナイフが怖くはないのか？」

　ゴアラ男の声に戸惑いが混ざる。

　コンバットナイフは十分な殺傷力のある武器だ。しかも、専門の格闘術を修めた筋骨隆々の巨漢が振るうとなれば、その恐ろしさは並大抵のものではない。
　
　だが、その恐怖を真正面に見据えて、風雲児は一歩たりとも譲らない。
　傷が増えようとも、追い込まれようとも、けっして退かない。

「なぜだ？　なぜそこまでする？」
「決まってる」

　すばやく突き出される刃先を見切り、なおかつ踏み込んでストレートを放つ。
　横薙ぎに変化した斬撃を、ナイフの柄への肘撃ちで防ぎ、身を捻ってかわす。

「俺は、この島の平和を背負う覚悟があるからだ。それに……」

　気迫に押されたか、中途半端に突き出だしたナイフを持つゴアラ男の右腕を、ザ・ストレイトはがっしりと握り固定した。

「俺の後ろには、頼れる仲間たちがいる。退く理由はない」
「なに?!」

　ゴアラ男は驚愕の叫びを上げた。その右腕からナイフの感触が文字通り砂のように崩れ落ちたから。