ＳＴＯＰ、銀行強盗！｜リアクション

ＳＴＯＰ、銀行強盗！

【第1戦：ロビー　ニャンダム面の男】

「まず言っておくわ……」

　小田切巻奈は、ろっこん『変身！魔法少女プリズム★マキナ』によって発達した胸筋をピクピクと動かしながら一歩踏み出した。

　あまりにも浮き世離れしたその存在感に、『希望戦士ニャンダム』のお面をかぶった男は固まったままだ。

「貴様の罪は銀行強盗を行ったことでも、未来における犯罪都市のきっかけをつくったことでもない……」

　また一歩、ロビーのフロアにヒビが入るのではないかと思えるほど重々しく歩を進める。
　ニャンダム面の男の足元で、か弱い少女が怯えを瞳に浮かばせて息を呑んだ。

「いたいけな『可愛い』少女を穢そうとした事！　貴様の罪はただその一点のみ！　その罪万死に値する！」

　小田切はもはやメイスとしか思えないマジカルステッキを振りかざした。

「故に私が……、魔法少女プリズム★マキナが貴様を成敗する！　覚悟しろ、可愛くない変態！」

　雄叫びとともにマジカルステッキを叩きつける小田切。
　眼前の光景に動けないニャンダム面の男。

　この一撃ですべて終わるかと思われた瞬間、弾けるような音とともに飛来したきらめく矢が、ステッキに当った。
　強いしびれが右手を貫き、小田切は得物を落とす。

「ッ！　いったいなに？」

　重厚感あふれる肉体を機敏に操り、飛び退いた小田切は発射元を確認する。
　そこには、無機質にロビーを眺める監視用カメラがあった。

　レンズから怪しい放電を繰り返しているカメラは、まるでレーザー銃のように見える。

「へ、へへへ。なんだか分からねぇが、今日の俺ってツイてるみたいだな」

　ようやく金縛りが解けたか。ニャンダム男は音の外れた口笛を吹く。
　その音が消える間もなく、小田切は肩口に強烈な一撃を受けてうめいた。

「ぐ、あッ」
「お前ももれいびなんだろ。じゃあ、手加減いらねぇよなぁ」

　ニャンダム面の裏でくぐもった嘲笑が響く。

　何が起こったのか、小田切は理解できなかった。
　一瞬で男の姿を見失ったあげく、踵落としを食らったのだと気がついたのは、同様に右に回り込まれてローキックを受けた後だ。

　ニャンダム面は細く長くしなやかな右足を自在に操りながら、耳障りな声を上げる。

「どう見てもパワータイプだよな、お前。俺のスピードについてこられるか？」

　調子の外れた口笛とともに、蹂躙が始まる。

　ニャンダム男は直線的ながら高速移動を繰り返し、テコンドーと思われる多彩な蹴り技で小田切を追い詰めていった。

　小田切にとってますます不利な点は、複数の監視カメラから放たれる電撃だ。
　ニャンダム男の攻撃によって押されて射程内に入ると、容赦なく撃たれる。
　ダメージ自体は決して大きくはないが、しびれて数秒ほど身動きできない。
　その無防備な隙を狙って、容赦ない蹴り技が来る。
　ニャンダム面の男も条件は同じはずだが、高速で移動する故かカメラが認識する前に範囲外に出ているようで、ほとんど攻撃対象になっていない。

　完全な悪循環。

　小田切は分厚い腕で自らの頭部を守り、意識を刈り取られるのを防ぎつつ、ひたすらに耐えるしかなかった。

「ひゃははははッ！　誰が可愛くない変態だって？　自分の格好、鏡で見たことあんのかよ！」

　肉を穿つ音とともに、聞くに堪えない悪口雑言がロビーに木霊する。

　だが、その悪意は小田切の心を一ミリたりとも傷つけはしなかった。

　知ってる。私は可愛い女じゃない。
　分かってる。私は可愛い存在じゃない。

　でも。
　だからこそ。
　私は何よりも『可愛い』を愛しているんだ！

「『可愛い』を守るためなら、私は一歩も引かない！」
「うるせぇ！　沈んどけ、この筋肉女が！」

　ガードの隙間を抜き、ニャンダム男のつま先が小田切のあご先を撃ち抜く。
　頭蓋が揺さぶられ、脳震盪を起こした。
　小田切の闘志は消えなかったが、その熱い思いは身体に伝わらなかった。

　ろっこんが解除され、筋肉が縮んでいく。
　女性らしい姿に戻った小田切は、力なくその場に倒れ伏した。

「へぇ〜。なんだよ、さっきの姿はろっこんだったのか。けっこういいカラダしてんじゃん」

　お面の影でいやらしく笑っているに違いないニャンダム男は、卑猥な動きで小田切に手を伸ばそうとする。

　しかし、その指が小田切に触れることはなかった。
　ニャンダム男の視界に、悩ましいため息をつく女の姿が入ってきたので。

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