ＳＴＯＰ、銀行強盗！｜リアクション

ＳＴＯＰ、銀行強盗！

「ひゃはははは！　お前ら動くんじゃねぇぞ！」

　一瞬で場の空気が凍りつく。
　ニャンダム男が、一人の女の子の首に腕を回していた。
　気絶したかのように見せて、ろっこんで短距離を這って移動し、近くで怯えていた少女を再び人質にとったのだ。
　そう。再び。

　その娘は、一番始めに男が手を出そうとしていた人質だった。

「てめぇ！」

　新田が怒声を上げたが、動くことはできなかった。男の指が凶悪な動きを示したので。

「動くなって言ってんだろうが！　指一本でも動かしたら、この嬢ちゃんの目ん玉えぐるぞ？」

　その言葉にサキリは舌打ちする。
　偶然に過ぎなかっただろうが、男の言葉は『斬空赤刃』の発動条件を封じていた。
　
「こんなことして、どうなるか思い知らせてやるぜ。兄貴達が戻るまで動くんじゃねぇぞ！」

　朝鳥もサキリも新田も、そしてその場の人質全員も微動だにできない。
　状況は始めに戻ってしまった。

　そう。
　始まりに戻ったのだ。
　だからこそ、動ける者が一人だけいた。

　背後から伸びた手が、ニャンダム男の腕を掴む。

「な、なんだ。誰だ！　って、イテテテ！」
「言ったでしょ？　いたいけな『可愛い』少女を穢そうなんて、その罪万死に値するって！」

　地獄の底から響くように、大声で宣言される『可愛い者への愛』。
　同時に、爆発的に膨れ上がる腕の筋肉。ろっこんの発動。

　気絶していたがためにニャンダム男の意識から外れていた、愛と希望と欲望の魔法少女がそこにいた。

　力任せに。しかし人質の少女にはまったく影響を与えずに、ニャンダム男の腕を引き剥がす。
　そして、流れるようなサブミッションのオンパレード。

　力感あふれる、マジ狩る★キャメルクラッチ！
　筋肉が絡みつく、マジ狩る★コブラツイスト！
　見惚れるほど豪快な、マジ狩る★ブレーンバスター！
　そして地獄の、マジカル★金〇〇つぶし！

　ニャンダム男は悲鳴すら上げることができず、まるでボロ人形のように投げ出された。
　あらぬ方向へ四肢を広げ、痙攣するその姿。

「うわぁ……」
「さすがに哀れになってきた」
「……いい気味、かしら？」

　もれいび達のつぶやきが妙に大きく聞こえる。
　目を背けたくなる光景に、先ほどとは別の意味で静かになったロビーで、小田切はろっこんを解除した。
　傷つきながらも普通の女子高生の姿に戻った小田切は、今度こそ本当に助かった少女を優しく抱きしめる。
　柔らかく微笑み、頭を撫でた。

「怖かったわね？　でももう安心よ。よく我慢したわね」

　ロビーに少女の泣き声が響き渡る。
　それが緊張から解放されたからなのか、新たな恐怖に突き動かされたからなのかは定かではない。

　ただ、小田切は少女を守れたことに満足し、同時にぷるぷると震える小動物のような可愛らしさを目の前にして、魂の底から感激していた。