本日は失敗日和につき｜リアクション

本日は失敗日和につき

　タイラ・トラントゥールは、自室で、カプセルギアのメンテナンスを行っている最中だ。
　替えパーツの製作のため、部品を切り出していたのだが、
「ッ……」
　今日のタイラは、些か、集中を欠いていた。
　カッターが、人差し指に僅かに傷を生む。パーツも、欠けてしまった。
（……失敗した。これでは使えないな）
　傷から滲む血、そして、砕けたパーツ。
　タイラの脳裏に、寝子小を舞台に繰り広げられたギアバトルが過ぎった。
　タイラのカプセルギアたるバルティーグルは、その時、あるカプセルギアに庇われている。
　パーツの破片を飛び散らせたカプセルギアの持ち主は、琥珀色の目をした同級生だ。
　あの時は、彼の頬をも、破壊されたパーツの破片が掠めて――。
　忘れ得ぬ記憶は、タイラに、己の不甲斐なさをひしひしと感じさせた。
　拳を握り締めれば、出来たての傷口が広がり、赤い血が、ぽつ、と作りかけのパーツに滴る。
（ボロボロだったが、アイツはそれでも立ち上がり、皆と力を合わせ勝利した）
　カプセルギアは、確かに面白いとタイラは思っている。
　何せ、自分がハマったほどなのだ。
　しかしそれでも、カプセルギアは、ただの玩具だった……はず、なのに。
（それが竜世と一緒に行動しているうちに、よくわからないおかしな気持ちになる）
　そして、バルティーグルを身を呈して守ったのは、彼だけではない。
（ボクはその前にもバトルで庇われた……）
　バルティーグルを庇った相手は、バルティーグルのことを『大事なもの』と言っていた。
　その言葉が、頭に、染み入るように響く。
（ボクは同じ失敗を繰り返すつもりは無い。弱い自分など許せない。誰かに庇われるだなんて以ての外だ）
　ならば。
（――今まで以上に、もっと努力しなければならない）
　ライバルに負けたくない、という想いは消えていない。
　しかし今はもう、それだけが全てでもないのだ。
（ボクは……竜世の隣に並び歩む今が続く事も、望んでいるようだ）
　強くなろう、と、胸の内に噛み締める。
　そしてタイラは、完成させるべきパーツを、また手に取った。
「となれば、集中を切らせている場合じゃないな」
　頭から離れない諸々のことは、忘れずに、けれど今は心の片隅に置いておこう。
（……バカにしていたはずだったんだがな）
　再びカッターを握りながら、タイラはそう、胸の中にひとりごちた。

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