本日は失敗日和につき｜リアクション

本日は失敗日和につき

　ここは、家庭科室。
　鬼河内萌は、失敗カレーがたっぷりと入った鍋の前で「うーん」と腕を組んで唸っていた。
　その周りには、おっとりと頬に手を当て、軽く首を傾けている白沢絢子先生。
　そして興味津々で鍋を覗き込んでいる野々ののこ。更に、
「ちょっと待て何だこの罰ゲーム」
　と、この状況に一切納得が行っていない様子の野菜原ユウの姿もあった。
「罰ゲームじゃないよ！　皆の知恵を貸してほしくて……」
「俺、お前に『カレー食べ放題だよ☆』って誘われたんですけど？」
「食欲と言えば、育ち盛りの男子高校生でしょ？　だから、男友達のユウくんを……」
「育ち盛りでも、こんなやばいものは中々食べないからな？」
「出来上がったカレーは絶対完食！　皆、ボクに力を貸して！」
「聞いて？　俺の話」
　遡ること１０分ほど前、萌は校内を駆け回って集めた３人に、
　――ボク的には失敗なんだけど、味の捉え方は人それぞれだよね？
　と、失敗カレーをそのまま食べてもらったのだった。
　結果、白沢先生は、「あらあら、これは困ったわねぇ」と眉を下げ。
　ののこは、「すっごーい！　こんなへんてこな味、食べたことないっ！」とはしゃぎ。
　ユウは、「ちくしょう、騙された！！」と作業台に拳を落として白沢先生に叱られた。
　つまるところ、最早この失敗カレーを食べ尽くすには、アレンジするしか道はなし！
「このカレー、リメイクで何とか出来ないかな？　何か加えてみるとか……」
「もう手遅れじゃね？」
「ユウくん、諦めたらそこでカレーは終了だよ！」
「うん、俺はもう終了したいんだわ」
「はいはーい！　もっと辛くしたらいいと思いまーす！」
　萌とユウのやり取りに、元気よく挙手をしたののこが割って入る。
　ふむ、と、萌は口元に手を宛がった。
「成る程、成る程。辛味……何を加えたらいいかなぁ？」
「うーん……わさびとか？」
「よし、採用☆」
「採用すんの！？」
　ユウのツッコミを無視して、ののこの思いつき通りに、鍋にわさびがどーん！
「白沢先生は何かアイデアないですか？」
「そうね……やっぱりもう、ひたすら辛さで押し切るしかない気がするわ」
「具体的には！」
「ええと……唐辛子、かしら。それも、とびきり辛い種類がいいと思うの」
「了っ解だよ☆」
　何とか味を誤魔化すしかないとの考えから来る、白沢先生の諦念が混ざる提案。
　萌は、それも素直に聞き入れて、唐辛子パウダーをどばどばと鍋に投入した。そして。
「あれ？　何だか目が……喉が……」
「煙が！　染みてるんだよ！　ほぼ毒ガスじゃねーか！　窓開けろー！」
　慌てて、家庭科室の窓という窓を開け放つ萌達。
　そんなハプニングもありつつ完成したリメイクカレーは、
「ど、毒々しい……！　そして香りがやばい……！」
　なんて、萌も思わず戦慄する仕上がりだった。
　コホン！　と一つ咳払いをして気を取り直し、
「……さ、ユウくん、食べて☆」
　と、萌はとっておきのにっこり笑顔で、ユウにスプーンを差し出す。
「って、食えるかー！！」
　ユウの叫びが響き渡る中、ののこが楽しげに、きゃははと笑った。

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