ダーク・ネコジマシティ・ウォーズ｜リアクション

ダーク・ネコジマシティ・ウォーズ

【その心、虚栄】

　虚栄心ことヴィランのティミッド・バニティはイーストエンドで浮浪者から金を奪っていた。
「なんだ、お前は……ぎゃあ！？」
「あははは！　痛い目に遭いたくなかったら、有り金を全部置いていきなさい！」
　バニティは、自分よりも劣っている者を甚振るとき、心の解放のようなものを感じていた。
「……ふぅ、スッキリ。あら？　あれはなにかしら？」
　そうしてひとしきり稼ぎを得た後、バニティは何故か道路に放置されていた車の残骸に気づいた。
　そのとき。
（……っ！？）
　残骸の陰から、美しい女が姿を現した。
「……完全に気配を消していたつもりだったのに。あなどれないわね。ミスター菩薩……。おかげで、異次元からの脱出に時間がかかってしまったわ……」
　ぽつり、と呟いたその女の顔に、バニティは見覚えがあった。
（……そうだ。確かリッカルドの……！）
　そう。そこにいたのは、リッカルドの美人秘書の三折部朝衣であった。
「……っ、そこにいるのは誰だ！？」
　と、その視線に気づき、三折部朝衣ことヴィランのディメンションサーファーがバニティの方を振り返る。
「自分は何も見てないっす！！！」
　次の瞬間、バニティは、脱兎のごとく逃げ出した。
　が、すぐに追いつかれ、首根っこを掴まれる。
「すみません、ごめんなさい、許してください！　お金なら全部あげますから！　だから、命だけはお助けぇええ！」
「…………」
　バニティは喚いた。そのあまりのみっともなさに、ディメンションサーファーは首にかけようとしていた手を止めた。
「……もしも私の正体を漏らすようなことがあれば、このシティでもっと惨めな死に方をすると思いなさい」
　しゅるり、と衣擦れのような音を立てて、ディメンションサーファーは次元の向こうへ消えた。
「…………」
　その存在が完全に遠のいていくのをたっぷり５分間ほどかけて確認してから、

「ふふふ、ははは！　計画通りよ！　強者にへつらい、弱者を甚振る！　それが、私、ティミッド・バニティの生き方なのよ！」

　と、高笑いを浮かべた。自分で言ってて虚しかったのか、夜空に浮かぶ月がちょっぴり滲んで見えたが、それには気づかないふりをした。

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