薔薇色の休日｜リアクション

薔薇色の休日

【風そよぐテラス席で】

「しばっち、美味しい？」
「うん……っ！おいしい、これ、すごく……！！」

　カフェにあるテラス席で、志波拓郎と高梨彩葉の二人もまたお茶とケーキに舌鼓をうっていた。
　テーブルの上にはやはり薔薇ジャムのショートケーキにローズティー、更に拓郎が我慢できずに追加した可愛らしい薔薇のマカロンも並んでいる。
　拓郎が幸せそうにケーキを頬張る姿に、彩葉の顔も自然と綻ぶ。
「あはは、しばっちったら。口元にクリームついてる」
「え、生クリームついてる、どこ……え、あ……！？」
　顔を赤くして慌てる拓郎の様子に彩葉はくすくす笑いながらハンカチを取り出して、拓郎の唇の端についたクリームを優しく拭きとる。
「あ、ありがとう……」
　ますます拓郎の顔は赤くなって、湯気が噴き出しそうだった。
（……最近、彩葉さんといると、何か変、だよな？）
　走ってもいないのに心拍数があがり、うまく息が出来ない。顔も妙に火照って、いつも以上にうまく喋ることが出来ない。
　そんな症状に悩まされて拓郎が俯いていると、彩葉が心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫？しばっち」
「あっ……いや、うん、な、なんでも、ないっ……！ちょっと、おなかいっぱいになって、きて……！」
　慌てて顔を上げて下手な嘘をつく拓郎だったが、彩葉は疑う様子もなくほっとしたような笑顔を見せた。
　その笑顔に、拓郎もまたホッとする。
「あ、そーだ。だったら腹ごなしに散策しに行かない？薔薇園の方に」
「薔薇園……うん、そう、だね。いい、かもしれない、な……」
　彩葉の提案に拓郎は快く頷く。
（本当はそっちがメインの目的なんだよね）
　彩葉がこっそりそんなことを思って頬を染めているのを、自分のことで精一杯な拓郎が気づくはずもなく。
　そうして穏やかに、仲睦まじく二人のティータイムは過ぎていった。

　草薙龍八もまたカフェで薔薇のケーキを頼んだ一人だった。
　しかし紅茶よりコーヒー党である彼のテーブルに置かれているのはローズティーではなくブラックコーヒー。
　そして他の客達と違い、龍八にとってそれらは夢中になるものではなく、あくまでも作業効率を上げる為のものでしかない。
　契約したクラウドサーバーに自身が集めた情報を保存し、自分の目的を果たす為の手札を重ねる。
　そして新しく用意した2つ目のサーバーへのアクセス方法を信用に足ると判断した人間に送信して、小さく息を吐いた。
「これで良し、と……」
　危ない橋を渡ることが日常茶飯事で、明日もこうしてのんびり過ごせるという保証が龍八にはない。
　それ故にこの作業は龍八にとっての保険であり、欠かせない日課だった。
（他には……そうだ。色の変わる薔薇の噂だ）
　コーヒーカップに口をつけながらねこったーを開く。
　寝子高生を中心に、寝子島の関係者中心にフォローしているアカウントの流れに目を通せば、色が変わる薔薇についての呟きが目を惹く。
　どうやら今日は寝子高生が多くこの薔薇園に来ているらしい。そして薔薇の色は触った者の感情に関係があるのでは、という呟きが多い。
「観察眼を鍛えるのに良い機会だ」
　あわよくば今後使える情報も得られそうだとほくそ笑み、龍八は席を立つ。
「ん？あれはもしや……」
　龍八がカフェを出た後ろ姿を、カフェに隣接したショップから出てきた大田原いいなが偶然目撃する。
「間違いない、こんな良い天気にあんなコートを着ている男は仇敵草薙に決まっておる！また何やらよからぬことを企んでおるのではあるまいな……」
　白薔薇の花束を抱えたまま龍八の背中を睨みつけ、いいなは唸る。
　いいなは亡き父への土産にする白薔薇を求めて今日ここにやってきたわけだが、仇敵の姿を見かけたとあればそれを捨て置くわけにもいかなかった。
「少々後をつけてみるか。善は急げじゃ！」
　龍八の背を見失わないよう急ぎ足で、しかしばれないようこっそりと。
　いいなの仇敵大追跡が開始された。