薔薇色の休日｜リアクション

薔薇色の休日

【乙女の祈り】

　宮祀智瑜はいつものように転ばないよう、足元に気をつけながら慎重に薔薇園の中を散策していた。
「薔薇には棘があるし、いつもみたいにドジして転んだら大変」
　少しドジなところがある自分にそう言い聞かせていた智瑜だったが、足元に気をとられ過ぎて前にいる人物に気がつかなかった。
「きゃっ！？」　
「あら……？」
　御巫時子は不意に背後から衝突されても、さして動じた様子もなくゆっくりと後ろを振り返った。
　時子の肩に乗った小鳥だけ、抗議するようにピィピィ騒がしくさえずっている。
「あっ、ご、ごめんなさい！私ったらまたドジしちゃって……！」
「いえ、私は大丈夫ですから……それよりお怪我はありませんか……？」
　肩に乗る小鳥を宥めながら心配そうに時子が尋ねれば、智瑜は慌てて手を振りながら答える。
「全然大丈夫ですっ！え、えっと、私、宮祀智瑜って言います。寝子高の1年1組で……えっと、もしかして隣のクラスだったりします？」
「ええ、1年2組の御巫時子と申します……どうぞお見知りおきを……」
「やっぱり、隣のクラスだから廊下ですれ違ったことがあるの、覚えてて……あと、よく五十嵐先生と一緒にいらっしゃるのを見かけるので、お顔覚えてたんです」
「まぁ……」
　五十嵐先生という単語に時子は思わず手で頬をおさえる。
　自分からは色までは確認できないが、掌に当たる頬はほんのりと熱い。
（この想いは恋？それとも、憧れ……？）
　気がつけば目で追っていて、出来ることなら一緒にいたいと願う気持ち。
　尊敬や憧れは恋と錯覚しやすい。
　自分の五十嵐先生に対する気持ちもまたそういった類のものではないかと、時子は考えていた。
「いいなぁ、私も義弘先生ともっと一緒にいたいけど……理由みつけたりするの大変で」
「義弘先生って、桐島先生のことですよね……。智瑜さんは、桐島先生のことがお好きなんですか……？」
　時子が首を傾げれば、智瑜は照れ臭そうに笑いながら小さく頷く。
「はいっ……！本当ならこの薔薇も先生に見せてあげたいなって」
　智瑜が桐島先生に想いを馳せながら白薔薇に触れる。
　すると薔薇はみるみる内に鮮やかなピンク色に染まっていった。
「あ、あれ！？どうしよう、怒られちゃうかなっ……！？」
　不思議な薔薇の噂を知らなかったのか、それとも忘れているのか、目の前で起きた事態に智瑜はあわあわと慌て始める。
「もしかして、これが噂の……？」
「え、あ、時子さんは何か知ってるんですか？」
「ええ、最近触れると色が変わる白薔薇があるという噂があるんです……。私が今日ここに来たのも、その薔薇に触れて見たくて……」
　智瑜に説明しながら時子も白薔薇に触れる。
（……もしかしたら、この薔薇は）
　智瑜が触れて色を変えた薔薇の様子を見て、時子は何となくこの薔薇の色が変わる仕組みを察した。
（教えて下さい、私のこの気持ちは、何……？）
　時子は五十嵐先生のことを頭に思い浮かべ、沸き上がってくるこの感情の正体を薔薇に問う。
　そして薔薇はその花弁を赤みがかったピンクに変え、時子の問いかけに答えた。
「やっぱり、これは恋なんですね……」
「え？」
「この薔薇は、きっと……誰かの事を想って触れれば、その人に向けた気持ちに反応して色を変えるんだと思います」
　ピンクという色から、自分が五十嵐先生に抱く感情は恋だと、時子は直感的にそう察した。
「不思議ですね……、でも、納得……。私も、義弘先生のこと考えてたから」
　智瑜が真っ赤になった顔を手で覆いながらドキドキと胸を高鳴らせている様子を見て、時子は何となく親近感を覚えてくすりと小さく微笑む。
「そういえば、智瑜さん。このあとのご予定は……？」
「あっ、私、薔薇の苗木買おうと思って！大きくなったら義弘先生にも見せてあげたいし……。それと、上手く育てられるように、園の人に訊いてみようかなって」
「それなら、一緒にここの園長のキャンベルさんの所へ行きませんか……？私はワークショップに参加する予定ですが……少しキャンベルさんにお聞きしてみたいことがあるので……」
「喜んで！あ、その前にちょっといいですか？」
「？」
　智瑜は携帯を取り出し、ピンク色に変わった薔薇を撮影する。
「これで、待ち受け画像に設定してっと。あ、時子さんもやりませんか？」
「えっと……何を……？」
「恋が叶いますように、っていうおまじないです♪」
　その時の智瑜の笑顔はとても幸せそうに輝いていた。

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薔薇色の休日

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