＜零神探訪＞紅燈火街（レッドランタン・タウン）｜リアクション

＜零神探訪＞紅燈火街（レッドランタン・タウン）

●情報

　
　こうして武道は、戸惑う屋台のおじさんから片手中華鉄鍋を借り受け、たっぷりの麻婆豆腐も買った。
　Leidenschaftのメンバーは、屋台の前に並ぶテーブルで激辛麻婆豆腐で腹ごしらえをする。
「から～い、うんま～い！」
　激辛料理好きな武道は、大絶賛。はふはふと唇を赤くして、亮も麻婆豆腐を掻っこむ。
「で、志波先輩。その鉄鍋、どうするんだ？」
「武器にちょうどよさそうじゃナイ？　振り回してよし、被ってよし」
　すると、向こうから、緑の髪で赤いチャイナ服の女の子が手を振って近寄ってくる。
「あーっ、麻婆豆腐！　おいしそう！」
「わあ、円ちゃんか！　見違えたよ。にゃーくんも中華なチョッキが似合ってる」
　武道は円を麻婆豆腐パーティに招待した。
「やったー。いただきます！　……はふはふ。熱っ！　辛っ！」
「ははは、いっぱいあるから慌てないでいいヨ」
　武道がおかわりを皿に盛りつける。
　亮は、自身が所属するボクシング部部長である円が幅広の剣を手にしているのに気づいた。
「部長、その剣は？」
「あ、これ？　青龍刀。かっこいいでしょ」
　柳葉刀とも呼ばれる中国刀は、先の方がやや湾曲して、柳の葉に似た形の幅広の片刃刀だ。
　円は刀を鞘から抜き、片足で立って構えて見せる。
　演舞風に一振り、青龍刀を振り下ろすと、柄に結ばれた赤と緑の飾り布が風に靡く。
「えいっ、たあっ！」
　カンフーめいた動きでひと振り。大道芸か何かだと思われたようで、客から拍手が起こる。
　すると、拍手の合間から、名を呼ぶ声がした。
「円！」
「あっ、ぶりちゃん！　海ちゃん！」
「良かった、探してたのよ」
「ごめんー」
　腰に手を当て頬を膨らませたブリジットは、次の瞬間、ぷっと噴き出す。
「円、チャイナ服が似合いすぎ」
『円ちゃんもチャイナ服かったんだ』
　海も、青いチャイナ服に着替えていた。こうして並ぶと、赤と青で対となるアイドルユニットのようだ。
　ブリジットは、テーブルで黙々と辛い麻婆豆腐を口に運ぶ中華な梢を見つけて、やだかわいい、と呟く。
「私もチャイナ服、買うべき？　円が赤で、海が青で、梢が黒なら、私はさしずめ白かしら」
　チャイナ服。女の子たちの浪漫である。
　武道はブリジットと海も麻婆豆腐パーティに誘った。
　椅子を追加して、７人でテーブルを囲みながら、情報交換を行う。

『聞き込みによると梨香さんらしき人物に、申海波（シェン・ハボ）さんのことを訊ねられたって人が、何人かいたよ』
「ボクもその話聞いた！」
　海と円の報告に、亮はスマホをタップして、修から送られてきた地図を拡大表示させる。
「どのあたりだ？」
『ここと、ここ』
「ボクはこのあたりだったかなあ」
　海と円が示した地点をつないでいくと、梨香の足取りが分かってくる。
　転移してきたのは海岸線寄り、大通りの東側であった。梨香はそこから西へ向かって進んだようだ。
「あ、でも、この甘栗の店より先は、ぷっつり聞かなかったんだよね」
　その店は、通りを東から西へと進んだとき、ユチェンと出会った場所より手前にあたる曲がり角にあった。
　地図を指で辿り、ブリジットがミス研部長らしく推理する。
「すなわち梨香は、甘栗の店がある角で裏路地の方へ曲がったということじゃないかしら。連絡が取れないってことは、そのあと提灯に喰われたのかも。つまり、梨香の肉体はそのあたりに倒れている！」
　話を聞いていた庚は、おかわりを取り皿によそう。
「Leidenschaftでも、発生源について聞き込みを行ってるが……まだめぼしい情報はない。引き続き、聞き込みと捜索を続けるぜ」
「了解だよ」
　円は唐辛子で真っ赤になった口元をぬぐって立ち上がる。
「ぶりちゃん、海ちゃん、梨香先輩を探しに甘栗の店の方に行ってみよう！」
「円！　ったくもう、思い立ったらすぐ動く子なんだから……皆にも連絡を入れて、っと。円、待ってったら」
『マーボードウフ、ごちそうさまでした』
　海はLeidenschaftのメンバーにぺこりと頭を下げて、ブリジットと円のあとを追う。
　とっくに皿は空になっていた。
　庚がのそりと立ち上がる。
「おい……俺らも行くぞ」
　梢と武道と亮の表情が変わる。Leidenschaftが動きだす。