月光通りの住人たち｜リアクション

月光通りの住人たち

　月光通りに迷い込んでしまった白真白は半透明の子どもと追いかけっこをすることになった。
「あの子どもを捕まえればいいんだよね。寝子島がこんな風になっちゃうのは困るし、頑張るぞ」
　真白は大きく頷いて、大通りの真ん中に立った。
　月明かりが射し込み、所々光が当たる。ぎらぎらと輝くネオンとはまったく違う光源だ。
　そして、子どもの笑い声が響く。
　真白は大きく息を吸い込んだ。
「おおーい、どこ行ったー？」
　相変わらず子どもの声は響いている。近くにいることは間違いないのだが。
「あっ」
　今、何かが裏路地の方へ入って行った。
　真白は追いかけていく。
「影になってて暗いな～」
　声をかけながら進んでいくと、
「えっ？」
　真白はびくりと体を震わせた。誰かが手を掴んだのだ。そして、路地に月明かりが射し込む。
　そこには半透明の子どもがにやにやと笑っていた。顔はぼんやりとしか見えないはずなのに、口元が歪んでいるのはわかる。
「うわっ！？　いきなり出た！？」
　これはかなりピンチなのではないだろうか。
　真白は素早く自分の髪を結っていたリボンを外し、力を流し込むイメージを頭の中に浮かべる。ろっこん、『鋼のごとく』が発動し、リボンがまるで剣のように硬く変化した。
「っはっ」
　リボンを水平にして、子どもの手を叩く。怪我はさせないが、これは痛いに違いない。
　子どもの手が離れたので、逃れて距離を取る。
「まったく、襲ってくるなんて聞いてないよ。でも、そういうことならこっちだってやってやるんだから」
　と、月明かりが陰り、子どもの姿がかき消える。
「どこ？」
　足音と笑い声が離れて行く。
　と、路地の先で「危ない！　逃げろっ！」という声がした。
「もしかして誰かいる？」
　真白はそちらの方向へ駆け出した。
　通りへ出ると、向かいの建物のそばで八神修が妙な姿をした女に胴一本を決めたところだった。手にしているのは鉄パイプだが、彼の構えから剣道のように見えてしまう。
「みね打ちだ」
そう呟いた修の背後に死神のような巨大な鎌を持った若い男が迫っていた。
　修はすぐに気づいたようだが、
「危ないっ！」
　真白も飛び出していた。
　二人の反応速度はほぼ同時、真白と修はそれぞれの武器で同時に鎌を受け止めたのだった。
　片膝をつく真白は立ったままの修を見上げた。片目を閉じて見せる。
「ここは任せてよ。誰か守りたい人がいるんでしょ？」
　修は頷いて、
「ありがたい提案だが、君を置いて行くわけにはいかない」
「だったら、一緒に」
　真白と修は目線を合わせ、
「っせーのっ」
　真白はリボンを下から上へ振り上げ、修は鉄パイプを振り下ろした。
　即興で合わせたわりには上手く行った。鎌男はダメージを喰らって後ろに倒れ込んだのだった。
「ありがとう、助かった。悪いが、追いかけなくてはいけないんだ」
　修は申し訳なさそうに頭を下げ、
「また会おう。気をつけて」
　そう言って、暗がりへと駆けていった。
「迷い込んだ人、結構いるのかな？」
　と、子どもの笑い声がし始める。一瞬だけ、路地に射し込む月明りの下を通り過ぎる影が見えた。
真白は素早くリボンを構えた。
「そこね？　ふふ、見えなくても、いる場所さえわかれば」
　真白は構えたまま、走りだし、一歩間合いに踏み込んで、上から下へ、斜めに切り上げた。
　手応えはあった。恐らくかすった。真白は月明かりが射さない場所へ視線を滑らせ、当たりをつけて、リボンを振り上げる。
　それに驚いたのか子どもが月明かりの下に現れた。
「もらったー！」
　真白は瞬時にリボンをさらに硬く強化し、ダーツの要領で投げた。
　リボンが後ろの壁に突き刺さり、子どもはその場に座り込んでしまった。
「私の勝ち……っと」
　真白はにっこりと笑って子どもの頭に手を置いた。
そして月光通りの風景が、崩れ始めた。

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