月光通りの住人たち｜リアクション

月光通りの住人たち

　深縹露草はネオン煌めく月光通りに立ち尽くしていた。
　声をかけてきた半透明の子どもは鬼ごっこがしたいらしい。そして、その子どもを捕まえと、寝子島が大変なことになるという。テオの話では露草以外のも迷い込んだ人間がいるとのことだ。そして、あの子どもも一人ではないらしい。
「そういうことなら、私も追いかけっこに参戦しマース……！」
　通りには子どもの笑い声が響いている。
　露草は駆け出した。
　耳をすませ、声が聞こえる方へ。子どもは月光の当たる場所に出たり入ったりしながら楽しそうに走って行く。
　逃げて行く子どもに集中できたらよかったのだが、月光通りには他にも住人がいるようだ。
「彼等に非はありませんが、私や他の方々が追跡するのを妨害されては困ります。未来の存続がかかってますから！」
　露草は懐に持っていたペンで自分の肌に『キケン』の字を取り入れた簡素な紋章を描き、ろっこんを発動。
(この世界の住民よ……その近くの壁や曲がり角よ、光れ！)
　ろっこんを発動したまま辺りを見回すと、近くの曲がり角に紋章が浮かび上がっていた。
　しかし、隠れ場所がバレて焦ったのか、月明かりの中へと子どもが飛び出してきた。
　追いかけようとするが、いつの間にか住民に囲まれていたようだ。
　頭がない侍のような服を着た人間の体は月明りに輝く日本刀を手にしている。不思議な髪色の女性は虚ろな瞳で巨大な斧を持っている。その形は様々だが殺気だっている。
多勢に無勢、露草はひとまず逃げることにした。隙を見て、細い路地へ入り、全力で走る。
「はあ、はあ」
と、比較的大きな通りの角で誰かにぶつかりそうになった。
「おっと、すみません」
　とっさにそう謝ると、その相手、朝鳥さゆるは、
「こちらこそ。……急ぐのでこれで」
　そう言って駆け出してしまう。
　　恐らく彼女は住人ではない。同じように寝子島から迷い込んで例の子どもを追っているのだろう。
慌てて追いかけて、声をかける。
やはり、彼女も探しているらしい。
「なら、手伝わせていただけませんか？　目印をつけますので」
　露草はさゆるの答えを聞く前に看板の陰へ隠れた。先ほどと同じようにろっこんを発動させ、紋章を浮かび上がらせる。
さゆるは気づいたようで、逃げる子どもを追って、路地の奥へと消えて行った。
「役に立ったなら良いのですが」
さゆるの背中を見送り、呟いてのもつかの間、再び子どもの声が響き始めた。
「確かに、一人じゃ、ないようデース」
そして、背後で再び住人の気配が。月明りの下に現れたのは先ほどの首無し侍だ。
「しつこいデースね」
　露草はギラギラとした光を放つ自販機の近くに落ちていた空き缶へ視線を滑らせる。
　強く念じると空き缶は光輝き、追いかけてきていた首無し侍に直撃。
　住人達が気を取られているうちに路地へと逃げ込む。
　再びろっこんを使って居場所を見つけ、追いかける。
「！」
　空を見上げると、夜明けが近いのか、闇が薄くなっていた。
「まずいデース。こうなれば」
　笑い声をあげながら逃げていく子どもを見据え、ろっこんを発動するために念じる。
(月光通りの子どもよ……その近くの壁や曲がり角よ、光れ！)
　半透明の小さな背中に紋章が浮かび上がる。
「お願いしマース」
　と、紋章に驚いたのか子どもがつまづいて転んでしまった。
　露草はかけよって、背中にタッチ。
　その瞬間、月光通りの光が弱くなる。そして、建物や看板が元に戻っていく。
　露草は肩を落とした。
「次は危機迫らない遊びがしたいデースね。……はは」　　

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