やんちゃ座敷童子のいる夜｜リアクション

やんちゃ座敷童子のいる夜

●柏村文也はかく語りき

　『食事会』の舞台となる部屋へと案内された紗雪幽は、
「おおー、益々雰囲気あるなー」
　と、歓声に近い声を上げた。
　何せ、部屋に燈る灯りは、蝋燭の淡く微かなそれのみ。
　闇色に染まる部屋の中、幽の笑顔は、光源の如くに明るい。
「これは、何が起こるか楽しみっすね！」
「そうだね。幽君の言う通り、この雰囲気は、怪談話にはぴったりだし」
　にっこりと穏やかな笑みを以って応じるのは、如月蘇芳だ。その蘇芳は、
（まあ、怪談なんて、雰囲気がないとつまらないものだからね）
　という具合で、表情や声音、放つ言葉とは裏腹に、ひんやりとした心の声を抱えている。その時、
「おっ」
　と、喜色を孕んだ声が、闇の中に響いた。
　蝋燭の炎が照らし出すは、楢木春彦の、煌めくオリーブグリーンの瞳。
「飯、めちゃくちゃ美味そうじゃん！」
「おや、本当ですね、愛らしい……！　これは是非、冷める前にいただきませんと」
　供された食事の微笑ましいようなレパートリーにアケーチ・タッマーキも笑み崩れ、
「っすよね！　な、早速始めようぜ！」
　なんて、春彦は元気良く頷き、参加者一同の顔を、ぐるりと見回した。
「さんせーい♪　座敷童子も、もうこの部屋にいるのかな？」
　わくわく声で同意を示した響タルトが首を傾げた、その途端。
　――カチャカチャ、カチャ。
　待ち切れない！　というみたいに、座敷童子のお膳の方で、カトラリーが賑やかに音を立てた。
「準備は万端、みたいね……」
　突然のことに、青山絢の声が少し固い色を帯びたのを溶かすように、
「座敷童子、懐かしいなあ。某の実家にも昔いたんだよね。今は知らないけど」
　なんて、席に着きながら、文也は冗談めいた、けろりとした声音で言う。
　御巫時子も、動じることなく「ふふ」と口元を押さえて笑った。
「私の実家にも、女の子の座敷童子がいるみたいです。見た事はないですが……」
「へえ、面白い話だね」
　蘇芳がにこやかに応じ、時子がこくと頷いたところで、
「さて、それじゃ、吾輩から始めようか」
　と、文也は、軽やかな声音を部屋に響かせた。
「皆、すねこすりって妖怪を知ってる？」
「すねこすり、ですか」
「なんか、面白い名前だな」
　アケーチが瞳を瞬かせ、春彦が、その名前が持つ響きに少し笑う。
　それぞれの反応を目に、耳に、文也は、柔らかく目を細めた。
「そう、すねこすり。人が歩くのを邪魔するってだけの、まあ、結構かわいらしい妖怪なんだよ」
「可愛い？」
　緊張を滲ませていた恵御納夏朝が、これにはちょっと反応。
　そんな夏朝へと、文也は一つ、どっしりとして頷いた。
「見た目は、犬とか猫みたいな感じでね」
「わあ……！」
　夏朝の瞳が煌めくのを目に、文也は、「そう、皆、そういう反応をするのさ」と、鈍く双眸を光らせる。
「だから、そんなすねこすりに、嫉妬したんだろうね」
　ある時、犬の着ぐるみを被ったおっさんみたいな妖が、すねこすりの名を騙って現れた。
「それは……想像しただけで……」
　八神修の顔に乗る表情が、ちょっぴり苦いものになる。
「そう、すねこすりとは似ても似つかないんだよね。しかもそいつは、女性が歩いているところを……」
　邪魔するどころか、執拗にまとわりついて嫌がらせをして楽しんでいたのだと、文也は語った。
「う……」
　想像してしまったのだろう絢が、眉根を寄せて、己の身を掻き抱く。
　その反応に少し笑って、「ただ」と、文也は、声音に歌うような色を乗せた。
「その妖、狙った相手が悪かった」
「お、何が起こったんすか？」
　幽が身を乗り出すのに、文也は口元に弧を描く。
「彼女の友人、『力のある人』でね。怒ったすねこすりの大軍を引き連れて、その妖をとっちめたらしいよ」
　めでたしめでたし、と、文也が悪戯っぽく首を傾け、ほう、と何人かが息を吐いた。
　再び異変が起こったのは、その時だ。
「わっ」
　修が小さく声を上げ、すねこすりの大軍の愛らしさに想いを馳せていた夏朝も、
「うわっ！？」
　と、友人の声に意表を突かれて、声を跳ねさせた。
「あ、恵御納、悪い！」
「八神くん、さっきの反応は、もしかしてもしかして！？」
　タルトの声が、期待に、輝くばかりに華やぐ。
　同席者全員の視線を受け止めて、修は「ああ」と応じた。
「今、背中に乗ってる。悪戯にはリアクションも大事だと思ったんだけど……」
　俺が皆を驚かせてしまったな、と、淡く苦笑する修である。
「あ～あ、姿が見えるといいんだけどな～」
　美少年の姿で想像しとこう、と、タルトは真面目な面持ちで頷いた。

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やんちゃ座敷童子のいる夜

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