やんちゃ座敷童子のいる夜｜リアクション

やんちゃ座敷童子のいる夜

●ようこそ、『食事会』へ（２）

　花笠家の当主代理たる花笠珠子へと、御巫時子は、持参した土産（お饅頭だ）を手渡した。
「珠子さん、今日は、よろしくお願いしますね……」
「そんな、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
　時子がぺこりとすれば、幾らか緊張した様子で珠子も深々と頭を下げる。そんな珠子へと、
「花笠さん」
　と、八神修も、柔らかく声を投げた。
　顔を上げた珠子へと差し出したのは、
「これは……大福、ですか？」
「ええ。座敷童子は小豆飯が好物だと聞いたので、その代わりに。喜んでもらえるといいんですが」
　大福には、つぶ餡がたっぷりと入っている。小豆繋がり、ということだ。
「改めて、お招きに感謝いたします。怖くなくても、勘弁してくださいね」
　茶目っ気混じりに微笑めば、珠子の顔の僅かな強張りも、少し解けて。
　その反応に笑みを深くして、修は、犬杜一閃の方へと顔を向けた。
「子供の心を持ったあやかしと時間を過ごす、というのは興味深いですね」
「ええ、本当に、夢のあるお誘いで……私、胸の高鳴りを押さえ切れません……！」
　修の言葉に続いて、己の身体をうっとりと抱くのはアケーチ・タッマーキだ。
「素敵なお屋敷で悪戯とお食事を堪能……！　なんて素晴らしい催しでしょう……！」
「……そう言ってもらえると、有り難いな」
　ふ、と、一閃の口元が淡く緩む。一方、
「ふ、ふふ……珠子さんもとてもお美しいですし、ときめきが、留まるところを知りません……！」
　なんて、アケーチは、興奮に頬を薔薇色に染め、瞳を色っぽく潤ませていた。
　誰も、スーツ姿の美青年のめくるめく暴走を止められない。
　それはさておき、一閃の手からチラシを受け取った末に屋敷を訪れている時子が、
「私も、座敷童子さんとお食事をするの、楽しみです。姿が見えないのは残念ですが……」
　と、穏やかに笑んだ。
「何でも屋のお仕事も、順調そうで安心しました。私も、今度お願いしたいです」
「ああ、良ければ、贔屓にしてくれ」
　小さく笑い合ったあとで、「そういえば」と、時子は再び口を開く。
「一閃さんには、座敷童子さんが見えるのでしょうか？」
「いや、気配のようなものはわかるんだが」
「ということは……初さんがいらっしゃらないのは、もしかして、こういう趣向が苦手で？」
　従妹の話題に触れられて、「ご明察だな」と、一閃は苦笑した。
「苦手と言えば……恵御納、お前は大丈夫なのか？」
　一閃に呼ばれて、珠子にスマートフォンやねこシール等の荷物を預けていた恵御納夏朝は、
「へっ！？」
　と、ついつい、声を跳ねさせる。
　焦げ茶の双眸の揺らぎは、夏朝の恐れを、如実に物語っていた。
「その……実はホラーとか怖い、けど……『いぬもり』関連のバイトだもん、頑張るよ！」
　ぐっと、拳を握る夏朝。
　時子と同じく、一閃からチラシを受け取ってこの話を受けた夏朝である。
「そう言ってもらえるのは有り難いが……無理はするなよ？」
「う、うん。ありがとう、一閃さん」
「夏朝さん、もし我慢できなくなったら、遠慮なく、私のこの胸にとび込んでくださいね……！」
　現実世界へと無事帰還したらしいアケーチも、既知の仲たる夏朝へと笑みかける。そして、
「ともあれ、何とも言えず楽しみですね、ふふ……！」
　なんて、胸元に両の手を当てて、残念イケメンは再び恍惚の表情でかんばせを彩るのだった。

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