レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

　ずっと心にひっかかっていることがあった。きっと、本気で向き合えばすぐに答えの出てくることだ。きっと、相手に問えば、結果は出るはずだ。それでも、どうしても、海はその最終カードを切ることができずにいた。大切なものを失うのが、怖いから。

『小山内海です』
スケッチブックを繰り、自己紹介用の漢字で表記したページを見せる。
「海ちゃんね。私はロゼッタ」
『さきにうらないのおれいです』
海は299Coffeeの箱を手渡す。
「ありがとう。しまってくるから、お話を書いててちょうだい？」
海はペンを走らせる。言葉ができあがる頃にロゼッタは戻ってきた。
『さいきんきになるひとがいるんです』
「ふむふむ。それで？」
『そのひとはいつもやさしくてたよりになります』
『いっしょにいるとドキドキするんです』
『このきもちってこいなのかな』
『じぶんでもよくわからないんです』
『こいだとしたらきもちをつたえたほうがいいですか？』

海の言葉をじっくりと読んで、ロゼッタは問う。
「ねえ、海ちゃん。あなたにとって占いってどういうものかしら？」
海はしばらく考えて、こう書いた。
『こうどうのみちしるべみたいなもの』
「その通りよ。ちっちゃくてかわいいのに、しっかりしてるわね」
ロゼッタは心底感心したという風にうなずく。
「これは私個人の意見だけど。それは、きっと恋だわ。一緒に占ってみましょう。でも、カードの言うことがすべてじゃない。最後に選ぶのは海ちゃんよ。忘れないでね」
そう言うと、ロゼッタは海に二つの道を選ばせた。一枚目のカードに、恋を伝える未来を。続くカードに、このまま気持ちを暖めていく未来を。
「ソードの1」
カードの上に人が浮かび上がる。誓いの印のように、剣を掲げる。次第にその姿は鮮明になる。身の丈ほどの剣をささげ持つのは決意を秘めた表情の海自身だった。
「基本的にはいいカードだわ。勝ち取るためのパワーを表す。でもこれは、剣で切り裂くように、ばっさりと強引に物事を切り開いてしまう場合も指すの。私はこれを『急いてはことを仕損じる』と読みたいかな」
ロゼッタは隣のカードをめくる。
「ワンドの2。海ちゃんと彼は、もうある程度親密なのね。多少なりとも意識しあっているのでしょう。このままずっと過ごすこともできるでしょうね」
海は並んで立つ二本のワンドを見つめる。一本は長く、一本は短い、男子生徒と女子生徒になった。二人並んで歩くいつもの光景だ。
『きめるのはわたしなんでしょ？』
「そうよ。気持ちを伝えなくても、ずっと仲良くいられるわ。もし、変化を望むなら……いままでの関係を断ち切る覚悟が必要になるでしょう」
（剣のカードみたいに？　傷つけてしまうのかな？）
『ロゼッタさんはどうおもいますか？』
「それは占いじゃなくて、私に聞いているってことでいいかしら？」
うなずく海に、占い師は笑い返す。
「焦らず、急がず。もう少しきゅんきゅんする感じを楽しんでいてもいいんじゃない？　海ちゃんはいま何年生なのかしら」
海は人差し指を立ててみせる。
「それじゃあまだまだ猶予ありね。ゆっくり近づいていけばいいの」
『そうしてみるありがとうロゼッタさん』

――ただし、いつかは行動しなくてはダメな時が来るわよ？

最後の言葉が、少し重い。恋だと思う。黙っていれば、恋ではないふりをしてずっと過ごせる。
（でもそれじゃ、ちょっといやかな）
彼の隣に、いちばん近くに、いたいから。時が来たら、自分から覚悟を決めて切り開こう。
決断という剣で、未来という道を。