ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　颯爽と街ゆく七峯凜乃には、誰もが目を留めずにはいられない。
　実際にはずばぬけた長身というわけではないのに、引き締まった体躯、こなれた歩調でハイヒール、そしてなにより姿勢の良さで、凜乃はモデルのように人々の目を惹く。
　キャミソールとデニムショートパンツの組み合わせにレザージャケットを羽織り、髪は中分けのまま、短く揃えて爽やかに、それでいて猫耳＆尻尾の仮装を難なく着こなしているのだから、むしろいまの凜乃を、看過せよというほうが無理というものだ。
「遅ぇぞ、寝坊か」
　無造作に片腕を上げ、凜乃は待ち人――鷹虎龍獅にひらりと手を振った。
「遅くねぇだろ。まだ五分前ぴったりだ」
　そっちが早ぇんだよ、と龍獅はあさっての方向をにらみながら口をとがらせた。

　龍獅は私服のスカジャンにジーパンという、いわゆる不良の定番スタイルだ。着慣れた格好だが考えずにチョイスしたものではない。今朝龍獅は早起きしすぎて、家を出る直前までどんな服装で行くか、迷いに迷って最終的にこのスタイルを選んだのだった。あんまり着飾りすぎても気恥ずかしいか、と思ってあえてのカジュアルだ。
　しかし自分の服装のことなどとうに、龍獅の頭からは消え失せている。
　言うまでもない。普段とは一変している凜乃の姿に、心臓麻痺を起こしたのではないかと思うくらいドキリとさせられてしまったからだ。
　――今まで喧嘩したりしてた凛乃とは、全然ちがってる……。
　着飾ってくるのならそうすると、先に言っていてくれたら良かったのに。
　しかも猫の仮装つきなんて、不意打ちすぎるというものだ。
　だから龍獅はまともに彼女を見ることができない。目をそらせているのは、意図的だった。
　わかってるよ、とでも言いたげに凜乃は口元をゆがめた。
「どーした？　あたしの変身ぶりに言葉も出ないようだけど？」
「ばか言ってんじゃねーよ。似合う似合う、馬子にも衣装ってのはこれだな」
「褒め言葉と受け取っておいてやろう。ただ、そういう言葉はあたしのほうを見て話せよな」
　してやったりとばかりにニシシと笑って、
「じゃあ行くとしようか。ほれ」
　凜乃は龍獅の手を自分から取る。
「うわ！　なんだ！？」
「変か？　カレシカノジョってのは手をつなぐもんじゃない？」
　んなことくれぇ知ってるし、と言い返そうとした龍獅だけれど、哀しいかなその試みは水泡に帰した。
　なぜなら凜乃の指が生き物のように彼の指をからめ取り、いつの間にか互いの人差し指中指薬指そして小指、四本ずつの指がしっかり交差する、すなわち恋人つなぎの体勢にされてしまったからだ。
「あっち行ってみたいな－」
　などと笑って凜乃は駆け出す。
　なかば引きずられるようにして龍獅は従うほかない。
　このとき彼は、己の内側で起こっていることに戸惑わずにはおれなかった。
　なんだこのドキドキは。
　激しいドラムソロのよう。
　急に走ったから動悸が速くなっているだけだ……そう信じたい。