ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　待ち合わせ場所に近づくにつれ、それまで二十人に一人程度ポツポツ見かけるだけだった仮装者が数を増していき、気がつけば街ゆく人の、四人に一人くらいがなんらかの仮装をしているという状態に変わっていた。ちょっと猫耳カチューシャをつけただけの簡単なものから、フル装備で魔女に分しているものもある。なぜか甲冑騎士やロボットに分している人もいたりしてなかなかにカオティックだ。寝子島に国民性ならぬ島民性というものがあるとすれば、そこにはまず間違いなく、『仮装好き』というものが含まれることだろう。
　待ち合わせ場所は駅前としたのだが、あまりいいチョイスではなかったかもしれない。ここには同様の待ち合わせ人が大量におり、しかも仮装率は一段と高まっていたのだから。ちょっとやそっとのコスプレでは彼女を見つけられないかもしれない。
　しかし、そんな猫や魔法使いがあふれる空間で無事、卯木衛は聞きたかった声を聞くことができた。
「うーちゃん」

　まるで天界からさす一条の光、壬生由貴奈の声だ。魔女の仮装で、衛のほうに手を振っている。
「由貴奈さん！」
　ロケットみたいに猛ダッシュしたいという衝動をこらえて、衛は由貴奈に手を振り返し小走りで駆け寄った。
「やっほぉうーちゃん、どーお？　この衣装」
　くるっと一回転して、由貴奈はその全身を彼に見せた。
「家にあった魔女っぽいローブに猫耳とか尻尾とか、アクセサリいろいろ付けたりしてみたんだよぉ」
　魔女と猫のハイブリッド、そんな雰囲気の由貴奈なのである。おなじみとんがり帽子から猫耳がつきだし、黒いマントに開けられた穴から、しましま猫の尻尾が顔を出している。
「うわー！　由貴奈さんめちゃくちゃ綺麗可愛い！　です！」
　と言ってしばし絶句する。残念ながら衛の尻尾は作りものだが、もし本物だったらそれこそ、上下にブンブンと暴れていたことだろう。
「ふふ、ありがとう」
　頬を照れでうっすら染めつつ由貴奈は返す。
「ハロウィンじゃないけど、こういうのも悪くないよねぇ。高校のときは演劇部で仮装もしたけど、もしかしたらそれ以来かもぉ？」
「思いっきり現役感がありますよー！」
　そう言われて由貴奈の頬の熱は増した。
「今日は、うーちゃんとデートだし、ちょっと気合いれて仮装してみたよぉ」
　うううっ、衛の胸は喜びではちきれそうだ。女の子が自分のために気合い入れてお洒落してくれた、なんて、男にとって最高の殺し文句じゃないか！
　しかしその爆発しそうな気持ちを表現する言葉が出てこない。だから衛は呼吸困難を感じ酸素を求めるように、
「感激ですっ！！」
　と言うのが精一杯だった。
「うーちゃんの仮装は猫さんなんだねぇ」
　はいっ！　と元気よく返事して、衛はクールキャットというように、しなやかにそりかえるモデル風ポーズを決めてみせた。
「よく似合ってるよぉ、かわいくて」
　くっ……！
　後頭部を漬け物石で殴られたように、がくっ、とよろめく衛である。かわいい――その反応は期待していなかったからだ。しかし衛はすぐに気を取り直す。
　でもやっぱ由貴奈さんに褒められるんなら何でもうれしいや。
　笑み崩れて衛はこう宣言したのである。
「由貴奈さんが魔女なら、俺は忠実な使い魔の猫となりましょう！」