彼に似合う熟語はなにかと問われたら、
御巫 時子はまずまちがいなく、『孤高』の二文字をえらぶことだろう。
孤独だけどそれを寂しいとも思わず、世事のもろもろに相対しても、我関セズとばかりに超然としている。かといって卑屈ではない。むしろ誇りをもって、一人をつらぬく生き方をしている。
……いや、彼の場合『一人』ではなく『一匹』か。
時子の心に生じた波紋でも感じ取ったか、「む?」とでも言いたげに
テオドロス・バルツァ(通称テオ)は、テントみたいな三角の耳をぴんと立てた。
けれどそれはたちまちに収まり、また猫は、その灰色の耳をぺたんと寝かせたのだった。両目はやわらかく閉じられていた。
この日、シーサイドタウンそば、海の見える公園で時子はテオに出会った。つきたての餅みたいに丸まりベンチに伏せて、コンコンと昼寝を楽しんでいる様子だ。
猫というのは狭いナワバリに生きるものだと時子は認識している。なのにテオは神出鬼没、島中のどこでも見かける。数日前は寝子島高校の塀で寝そべっていたし、もう少し前は星ヶ丘で散歩していた。そしてどんな場合でもテオは、まるでそこが最初から自分のホームグラウンドであるかのように堂々としているのだ。借りてきた猫、という表現は彼には無縁のものだろう。
若葉を揺らす緑風が心地よい。時子はそっとベンチに腰を下ろした。
「春も終わりですね」
もとより返事は期待していない。テオは耳を立てることすらせず眠り続けている。
「もうすぐ雨の季節です。でもその前に、シーサイドタウンでちょっとしたイベントがあるのをご存じですか?」
それにしてもテオの毛並みはきれいだ。ノラとはとても思えない、高級毛布みたいなつやつやぶりなのである。薄墨色の背に触れてみたくて指先がうずうずする。けれど寝ているところをいきなり撫でられたら、きっと彼は怒るだろう。そう思って時子は我慢した。
「猫まつり、って言うんです。もとはベルギーのイーペルという街のお祭りで、魔女狩りが本当にあった時代に、猫を魔女の使い魔とかペストの原因だとか言ってたくさん殺した罪ほろぼしとして始まったものらしいですよ」
猫まつりは、その名の通り猫にあふれた一日だ。世界中から猫ファンが訪れ、猫にちなんだ仮装をした人々が通りを練り歩く。鐘楼から猫のぬいぐるみが投げ落とされるというアトラクションもあり、これをキャッチした人には幸運が訪れると言われている。クライマックスはパレードで、猫をかたどった山車(だし)がつらなる賑やかで楽しいひとときとなる。
といっても明るいだけではない。フィナーレでは魔女裁判と火あぶりの刑を模した焚き上げが行われるというのは、猫まつりが負の歴史にちなんだものであることを思いださせるだろう。
その猫まつりにならったイベントが今年、猫好きの多い寝子島で
『猫まつりat寝子島』と題して開かれることになった。日曜日の昼から夜にかけての予定で、もちろん本物の猫まつりと比べればずっと小規模だ。パレードも有志が参加するだけの短いものとなるだろう。
「でも、寝子島の人ってお祭り好きですから」
きっと盛り上がると思います、と時子は言った。
猫や魔女の仮装をした人たちが、どこからともなく結集することだろう。ハリボテの山車だって、あんな猫やこんな猫、趣向を凝らしたものが目を楽しませてくれるに違いない。ショップや通りには、猫のお土産がならぶ猫づくしになるはずだ。
「この週末の開催です。楽しみですね」
気がつくとテオは半月みたいな目を開けて、むくりと身を起こしていた。そして彼は時子に同意するでも反対するでもなく、「ふん」とばかりに鼻息ひとつ立てて、ベンチから降りたのである。そうして時子をそこに残し、したしたと歩き出す。
「あの……」
テオに話してどうなるものでもない。ないけれど、時子は言わずにはいられなかった。
「その猫まつりに、尚輝先生をお誘いしようかと思ってるんですけど……来てくださると思いますか?」
テオの背が止まった。
猫はくるりと振り向いた。そうして一度、ゆっくりとまばたきをした。
そして彼は向き直ると、そのまま茂みに姿を消したのだった。
いいんじゃない? ――テオがそう言ったように、時子には見えた。
時子の唇には、ほのかな笑みが浮かんでいた。
マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。
御巫 時子さん、シナリオのリクエストをありがとうございました!
シナリオ概要
このお話は五月下旬のある日曜日、シーサイドタウンで行われる小規模ながら賑やかな『猫まつりat寝子島』を舞台に展開します。
特殊な事件や危険なできごとはありません。日常の延長としてのイベントであり、ほのぼの楽しくすごすことが主目的です。
友達同士で遊びに行ったり、猫の仮装でデートしたり、パレードで練り歩くなんていう楽しみかたを推奨いたします。イベントスタッフをボランティアで募集しているので、運営側に入るのも面白そうです。お土産店でアルバイトしたり、普段のお店がこの日だけ特別に露店を出したりするのも楽しそうですね。
描写する場面について
『猫まつりat寝子島』の開催時間中を描く予定です。10時半ごろから20時あたりまででしょうか。
いただいたアクション内容によっては多少前後することもあります。
猫まつりで行われる内容
●仮装
仮装好きで知られる寝子島民です。ここぞとばかりに仮装をして出てくることでしょう。テーマ的には猫や魔女のモチーフが推奨ですが、別に希望するものがあるのであれば、思い思いの格好で構いません。
●ラッキーキャット
数匹ずつの猫のぬいぐるみを高台から投げ落とすので、これをキャッチするというアトラクションです。昼間に二回行われます。
このぬいぐるみは『ラッキーキャット』と呼ばれており、見事受け止めることができた人には幸運が訪れると言われています。
本場では鐘楼から投げ落とすそうですが、寝子島では駅ビルから投げることになるでしょう。
●パレード
夕方に行われる賑やかなパレードです。猫をかたどった山車がぞろぞろと歩きます。山車に乗って手を振るもよし、側道で歓声を送るもよし、です。
●魔女裁判と火あぶり
寸劇です。火あぶりにされるのはカカシみたいな魔女の人形です。
魔女裁判は、こういった愚行を繰り返さないように、という願いが込められたものですが、コメディ調でも問題はありません。
火あぶりのほうは、要するに大きな焚き火です。どんど焼きで焼き忘れた書き初めを火にくべたりするうっかり者もいそうです。
●他
寝子島アレンジのオリジナルなお祭りですので、参加者の皆様から提案していただいてもOKです。多少調整することもありますが、できるだけ対応させていただきます!
なお会場では、ボランティアスタッフが猫耳飾り(カチューシャ状)を配布したり、道案内や迷子保護をしております。
NPCについて
制限なしとします。ですが相手あってのことなので、必ず希望のNPCに会えるとは限りませんのでご了承下さい。
といっても登場させる努力はします……どうしても難しければ、秘剣『夢オチ』丸が鞘走るかもしれませんが、できれば避けたいところに候。
以下のキャラであれば、指定すれば100%遭遇できます。
●五十嵐 尚輝
お祭り見物に参ります。イベントスタッフに渡された猫耳の頭飾りとか、恥ずかしがりながらも付けてしまうかもしれません。
●テオドロス・バルツァ
興味ないね、という顔をしながらも、しれっと会場のあちこちで目撃されそうです。構われるのは好きではなさそうですが、一応、相手はしてくれます。
※NPCとアクションを絡めたい場合、そのNPCとはどういう関係なのか(初対面、親しい友達、ライバル同士、等。参考シナリオがある場合はページ数まで案内して頂けると大変助かります)を書いておいていただけないでしょうか。
また、必ずご希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい
それでは、あなたのご参加を楽しみにお待ちしております。
次はリアクションで会いましょう! 桂木京介でした!