ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　野々ののこは電話で、「あおいちゃん？　んーなんか先約があるんだってさ」と言った。
　ではその七夜あおいが今日、猫まつりで会う予定の人とは誰だろう。
「待った？」
　と現れたあおいは、彼女にしては珍しく、ラウンドネックのワンピースを着ている。七分袖、目の覚めるようなモスグリーン、しろつめくさの柄も控えめだ。白のソックス、栗色の革靴ともマッチしている。今日のあおいは、普段よりずっと大人っぽい印象があった。
「いや、俺も来たところで……」
　とまで口にしてそれきり、鴻上彰尋は言葉を見失った。
　見とれてしまったから。

　今日のあおいはクラシックだけど活き活きとしていて、控えめなのに魅力的をはなっていて、まるで『若草物語』の登場人物のようだ――。
「実家から送ってきた服なんだ」
　照れくさげにあおいは言った。
「せっかくだから、こういう機会に着ようと思って」
　初のお披露目なのだという。
　つまりそれって、と彰尋は思う。
　俺に見せるために取っておいてくれたって意味なのかな。
　いけない、いけない。
　彰尋は心の中で首を振った。そこまで考えるのはうぬぼれが過ぎるというものだ。
「ありがとう。来てくれて嬉しいよ」
　野々さんは一緒じゃないんだね、なんて野暮は言わない。誘いの電話をかけたとき、心中わきおこった『できたらふたりで行きたい』という言葉を彰尋は飲み込んでいた。それなのにあおいは彼の意を察したかのように、単身で応じてくれたのだ。
　深い感謝を。
　来てくれたそのことに。
　素敵な服を初披露してくれた気持ちに。
「綺麗だね」
　おもわず彰尋は言う。
「えっ？」
「その服装。可愛いっていうより、『綺麗』って言いたくなるよ」
　キザかな、と不安になってあおいを見ると、彼女は顔を伏せて、えへへ、と笑った。
「思い切って着た甲斐があったかな、なんて」
　可憐すぎる！　息が詰まりそうになって、今日この日このときを与えられた僥倖を、彰尋は思わず叫びだしたくなるのであった。

◇◇◇

　冗談じゃない！
　日曜の朝テレビをつけて、いきなり伏兵にあった気分だ。
　なんたること。いわゆる情報番組、休日の朝っぱらから、益体もないカウントダウンスペシャルとはどういう了見だ。
　ようするに、運勢占いだ。
　非科学的とかそういう以前に、誰がどこで占ったものだというのか。
　七枷陣は基本、こういうモノは信じないクチである。
　だとしても、無視しきれない結果がそこに映し出されていた。

　本日の双子座はメガ大凶！！
　金運：ガチャ爆死級
　健康運：虫の息
　恋愛運：到着したときにはもう死んでた（Τ）

「……何を言っているのか意味が分からない」
　棒チョコをぱきっと折って、バキボキとかみつぶす。
　要するに、外に出るなということだろうか。
「だが断る」
　一言告げてテレビを切ると、反骨精神に駆られて陣はリュックを背負い、『一日部屋でゲーム＆積んだままの書物の消費』にだった本日の予定を、急きょ『とにかく外出』へと切り替えるのである。