ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　うずうずするのは、血が騒いでいるからだろう。
「やっぱり、見ているだけじゃ我慢できない！」
　山車に乗ろう、そう初瀬川理緒は声を上げ、佐和崎紗月と一緒に山車に駆け寄る。
「お、威勢のいいねーちゃんだな！　飛び入りは歓迎だ！」
　山車の上から手をさしのべてくれたのは寝子島の若大将、ご存じサンマさんこと寝子サンマだ。なんでサンマが天敵（？）の猫のお祭を祝っているのか、なんて台無し気味なツッコミはよそうじゃないか。ロングなボディに比しアンバランスな細腕ながら、サンマさんはしっかりと理緒、ついで紗月に手を貸し、山車の上に引っ張り上げてくれた。
　賑やかな電飾で飾られた、巨大なペルシャ猫型山車なのだ。猫の背には広いステージが用意されており、踊るスペースには事欠かない。
「同じアホなら踊らにゃ損々、ってやつだ。派手にやろうぜ！」
　サンマさんは古式ゆかしきディスコダンスのステップを勇壮に踏み始めた。あれだ、フィーバーというやつだ。
　負けてはいられない、理緒はセクシーに体をくねらせ、見よう見まねの紗月に妖艶に絡むなどして、髪を振り乱しトランスしたように踊りまくるのである。

　ありがとー、と言って野々ののこたちが山車から降りると、南波太陽はすぐに、
「おっ、五十嵐先生発見っス！　乗って下さいっス！」
　と、街路でパレードを見物していた五十嵐尚輝に呼びかける。
「私、ですか？」
　困ったように尚輝は、かたわらの御巫時子を見る。すると時子は、
「じゃあ、少しだけ……乗ってみましょうか」
　とはにかみながら答えたのである。
　尚輝先生と一緒に山車に乗る、そのことも時子には嬉しかったが、それ以上に嬉しかったのは、人混みを抜けるとき、尚輝がごく自然に自分の手を握ってくれたことだった。

　パレードに声援を送りながら、鬼河内萌は目に星を宿している。
　夢見心地だ。
　隣には野菜原ユウがいる。
　胸には、そのユウからもらったぬいぐるみ（萌だけのラッキーキャット）がある。
　これ以上、望ましい展開があるだろうか。
　……。
「うわー、あの子たち、大胆だなあ。カッケーなあ」
　む？　という顔を萌は見せた。なんとユウが、知らないお姉さん（理緒）のダンスを見てエキサイトしているのだ。悔しいがあのお姉さんにスタイルではまったく及ばぬ我が身ゆえ、萌は黙って我慢するしかない。
　……と、思いきや。
「なあ、俺たちもどっか山車に上がって踊らねーか？」
　そうだそうしよう、とユウは威勢良く山車のひとつを目指す。それはリッカルド町長が手を振っているイタリアンな色彩の山車だった。乗っている人は少なく、まだまだ乗れそうだと思ったのだろう。
「ほら、鬼河内も行こうぜ！」
　無意識のうちにユウは、萌の手を取ってかけ出している。
「ちょ、ちょっとユウくん！？」
　萌の猫まつりは、まだあと少し続きそうだ。　