ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　ラッキーキャットを求めるさまよえる民草のなかに、鬼河内萌と野菜原ユウがいることもここに記しておきたい。
「うぐぐ……さっきの人のジャンプすごすぎ、あんなの勝てないよぅ……」
　というのは、卯木衛の跳躍を見た萌の感想だ。白いハンカチがあるなら、キーくやしー、と噛んでひっぱりたい気持ちの萌なのである。
「まー、それも運ってやつじゃね？」
　などとユウは朗らかに言うが、そこにも萌は突っ込んでおきたい。
「その運が欲しいからがんばってるんじゃない！」
「あ、そうか」
　それからも、立て続けに猫は萌の上をかすめていった。
　萌もユウも何度かはいいところまで行ったのだがどうしても届かなかった。蜃気楼のように、空の星のように、猫には手が届かないのであった。
　こうしてラッキーキャットの催しは終わった。
　なお、二回目にもチャレンジしたが不首尾だったことも言い添えておきたい。
　群衆が去った消防車の前、そこで頭を抱え、萌は膝から崩れ落ちた。
「うう……また赤点かも……追試……追試は……いや……」
　萌の脳裏を蘇るのは追試の記憶だ。彼女にとって追試とは地獄、それも、剣山でざっくざく流血沙汰の針地獄なのである。追試といえば赤い海、試験用紙も赤いカーペット、あんな体験をまたしなければならないというのか。
「なあ」
　そのときユウが、萌の前にしゃがみ込んだ。
「これ買ってきた。やるから、機嫌なおそーぜ」
　ほれ、とユウは萌に、土産屋で買ったという猫のぬいぐるみを手渡した。リッカルド町長が投げていたものと同一だ。そう、町長も買ったものを投げていただけなのである。
「あと……そんな追試が嫌ならよ、俺が勉強、付き合ってやろーか？　今度のテストの」
　ま、勉強できねーのは俺も一緒だけどな、とユウは歯を見せて笑った。
　――あれ？　もしかして。
　しおれていた花が慈雨を得たごとく、萌の顔に笑みがよみがえっていた。
　――見つけたかも、ボクのラッキーキャット……。
　萌は、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。