ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　ナゼ　オレハ。
　七枷陣はにわかに我に返る。
「ココニ　イルンダ！？」
　は？　と紅美はあきれたような声を出した。
「なに言ってんの？」
　陣と紅美の周囲は、人人人の人の海であった。濁流に呑まれる流木のごとく、あるいはオールスタンディングライブの最前列付近のごとく、人口密度マックス状態のただなかに彼らは置かれているのだ。
　もともと猫目なのをさらにつり上げて紅美は言う。
「あんたがラッキーキャットに参加したいって言ったんじゃない」
「言ってねーし！」
　陣は大急ぎで抗議する。
「紅（くれない）あんたが、『猫ぬいぐるみ欲しい！　参加者二人になればゲットできる確率も二倍！』なんて言って僕を引っ張り込んだんだろーが！」
「あらそうだったっけ？」
　などととぼけるが事実だ。
　なお、陣は紅美のことを、ハンドルネームで『紅』と呼ぶことにしていた。本名のほうだとつい苗字のほうにも触れそうになるし、そこに話が及ぶのは彼女的にNGらしいので、とりあえず安全策を採ったといったところだろうか。
　紅と再会した陣は求められるまま、ラッキーキャット入手要員として、人でごったがえすこの狂乱のただなかに放り込まれたのであった。
「そんなことはいいからキリキリ働く！　ほら、猫そっち行ったよ！」
　紅美が言ったとおり、ちょうど陣の真上に猫が降ってきた。
　行ける。これくらいならイージーだ、と思ったのもつかの間、猫のぬいぐるみは他の人の手先に触れてスピンし、陣の手をすり抜け、そればかりか額をポーンと叩いてまたどこかへ飛んでいった。
「ギニャー！？」
「なにやってんの！？　それ本物の猫じゃないよ！　過剰反応すぎない！？」
「んなこと言ったって……」
　あと少しだったのに、と、さすがに忸怩たる思いの陣なのであった。
　ラッキーキャットを目の前で逃すとは……やはり今日はメガ大凶だというのか！？

　陣の額をヒットしたぬいぐるみの後を追おう。
「きたっ☆」
　猫以上に猫のごとく、ニャーと野々ののこはジャンプする。
　僕も、と佐藤英二は腕を伸ばした。
　今日は猫の仮装をして、猫スコーンとクッキーを楽しんだ英二だ。当初の緊張はすでになく、沸騰中の鍋にある茹で豆みたいになりながらも、ラッキーキャット獲得に奮闘している。
　惜しかった。ぬいぐるみはののこから外れ、英二からも届かぬ位置に消えた。
「うーん、届かなかった」
　残念、というののこの体は、ほとんど英二と密着している。しかし英二はそのことに気付かず、
「あと三十センチ身長があればなあ」
　と軽口を言う。
「なら私はあと一メートル！」
　なにを対抗しているのか、そんなことを言ってののこはガッツポーズを取り、ぷっと英二を笑わせた。

　寝子高新聞部員としての活動は一旦休止！　椿美咲紀は現在、ラッキーキャット争奪戦のまっただなかにいる！
「ひゃああ！」
　激しくもみくちゃにされながらも、美咲紀はキャットをつかまえられると信じて疑っていなかった。
　――幸運は、必ず私に降ってきます！！　だからにゃんこも降ってくる！
　ゲットして取材運をつかむのは使命だと美咲紀は思っている。
　いい取材ができればそれはみんなの財産、すなわち公益となる。それは寝子高の、いやさ寝子島全体の幸福につながるはずだから！
　信じる者は救われるというのか。
　英二の目の前を横切った猫ぬいぐるみが、美咲紀の真上にやってきた。
「今なのです！」
　日頃の訓練のたまものか、ぴょいんと垂直跳びした美咲紀は見事、まんまるな目をしたキジトラ猫を手にしたのだった。
「やった！　幸運の猫ちゃんなのです！」
　ひしと抱きしめた美咲紀に、周囲の人々が「おめでとう」の声をかけてくれた。
「ありがとうございますー！」
　美咲紀は思った。
　この子は幸運の猫、だから『ユキ(幸)ちゃん』と名付けよう、と