ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　桧垣万里もラッキーキャットを求める集団の中に潜り込んでいる。
　なかなか難しいなあ、というのが正直な感想だ。
　やはり皆、幸運をキャッチしたいものらしい。目の色を変えてぬいぐるみを追いかけている。一人が動くと、一斉に人の流れが形成されるという感じだ。
　でも、流れに呑み込まれていたらだめだと万里は思う。
　――落ち着いて、焦らずに。
「今度は三つ、一気に投げます」
　ハチワレ、ミケ、トラ、三つのぬいぐるみ猫が宙に舞った。
　一見、万里から一番近いのはトラ猫のぬいぐるみだ。
　しかしあえて、もう少し遠いミケ猫の落下点を万里は計算し、どっと動く人の流れに逆らって落下地点を見きわめ腕を伸ばした。
「……そこっ！！」

◇◇◇

　ハチワレ、ミケ、トラ、三つのぬいぐるみ猫が投じられるも、いずれも鷹虎龍獅には届かない位置に姿を消した。
「なかなかうまくいかねーな」
　男だし少しぐらいは見栄を張りたい、だから龍獅は真剣に悔しがっている。じたばたしていると言われたら返す言葉もないが、ぬいぐるみが投じられるたび彼なりに、力の限り跳躍しているつもりだ。
　七峯凜乃のほうはもう少しおおらかだ。
「背はなくとも飛んでくるトコの運とジャンプ力次第、あたしらにもチャンスは十分ある。空気に飲まれてないで跳ぶ準備しときなよ」
　と自慢の脚力で飛ぶのだが、あいにくと本日凜乃はヒール履きだ。いつも通りのカモシカのごときジャンプはさすがにできない。
　やがてリッカルド町長は、両手にたくさん、鈴なりにキャットを取った。
「ではこれで最後にします。ラスト一投は大盤振る舞いですよー」
　これを見て、
「いざ、勝負♪」
　凜乃は目を輝かせ、
「今度こそ！」
　龍獅もまた、目を輝かせるのだった。
　ぱあっとぬいぐるみが飛び散った。
　……しかし残念ながら収穫することはあたわず、ラッキーキャットのイベントは終了したのだった。
　がっかりはしたものの、それならそれで、と龍獅は気を取り直した。
「まぁ仕方ないので今度似た奴買ってやるよ」
「ありがと」
　凜乃は笑った。実のところ凜乃はそれほど残念には思っておらず、楽しかったんだからそれでよし、と思っているのだが口には出さないでおく。龍獅の行為は素直に受けたかった。
　ここで茶目っ気が入道雲みたいにむくむくと出てきて、何気なく凜乃は言ってみた。
「やー、結婚式のブーケトスみたいな盛り上がりだったね」
　ぶっ、となにやら吹き出すような勢いで龍獅は早口に返す。
「オイいきなり何の話だ！」
　顔が赤い。
「おやどうしたよ龍獅、人酔いした？　それともドレス姿に興味湧いたとか？」
「ば……ばーか！　色々早いんだよ！？」
　そりゃあ興味がないわけはない。だけど、それはさすがに早すぎる！
　楽しいなあ、凜乃は心から爆笑してしまう。意地悪なのはわかっちゃいるが、せっかくの年下、ピュアな彼氏なのだ。とことん堪能させてもらいたい。