ねこのまつりでつかまえて｜リアクション

ねこのまつりでつかまえて

　壬生由貴奈と卯木衛は連れだってシーサイドタウンをゆく。
「ほんと、寝子島の人ってコスプレの類好きな人多い気がする」
　由貴奈はつぶやいた。
　猫まつりの中心に近づくにつれコスプレ率は高まり、もう仮装してない人のほうが少数派ではないか、というほどの勢いになっている。異世界に迷い込んだような気分だ。
　由貴奈に衛が応じる。周りをキョロキョロしてから、
「それにしても……猫がいっぱいですね」
　と由貴奈に視線を戻した。
「うん、さすが猫の島って感じだねぇ」
　ふふっと由貴奈は楽しそうに言う。
「うちも嫌いじゃないけどね。こうやってうーちゃんのいつもと変わった姿が見れるのも嬉しいし」
「俺も得した気分です。普段とはちがう由貴奈さんの姿を見れて」
「そう？　ならまた、もっと色々凝ったもの作ってみようかなぁ。今日はいっぱいコスプレを見てなんだか刺激を受けた気がするもん」
「由貴奈さんがこういうの好きなら……ハロウィンも期待ですね！」
「あいや、そこなお二方！」
　そのときふたりの行く手に、さっと猫耳黒タキシード、白い手袋の男が現れた。それこそ影が実体化したように、忽然と現れただけに由貴奈も衛も足を止める。
「うん？」
「一体なに？」
「一体なんだ！？　と聞かれたら、答えてあげるが世の情け、ラブリー・チャーミーなボランティアスタッフ、明智にゃんと申します」
　なめらかに明智は口上した。左目が妖艶に輝く。
　ああ、と由貴奈は納得する。たしかに彼は、『ボランティアスタッフ』と書いた黄色い腕章を巻いている。
「本日の麗しいお姿を、無料撮影させていただいております。記念に一枚いかがですか？　ふ……ふふ！」
　どうします？　と問いかけ顔の衛に、撮ってもらおうよ、と由貴奈は返した。
「それでは並んで、はい、笑って笑って……ご安心ください、魂が吸われるだけですから」
「え？」
「冗談ですよ冗談。では、ふ、ふふ……！」
　インスタントカメラなのですぐ現像は終わり、猫魔女と使い魔の、素敵な記念写真をふたりは手にしたのだった。

◇◇◇

　メイド喫茶『ねこのて』の特別主張露店、そのイートインスペースに席を取り、鴻上彰尋は七夜あおいと向かい合う。
「かわいいね」
　とあおいは笑った。いま彰尋の頭には、ボランティアという青年から進呈された黒猫の耳が飾られているのである。青年は、「あぁ、きっと今日の貴方にはこの黒にゃんこが似合いますね……！」と彰尋に太鼓判を押してこれを渡してくれたのだった。実際、よく似合っている。
「あおいさんも」
　彰尋は笑み返す。あおいの頭にも、まるで最初から生えていたような茶色の猫耳が飾られているのだった。やはりボランティアスタッフからもらったものだ。
　なお彰尋は腰に、お三夜まつりの準備のときあおいと一緒に作った尻尾をつけていた。そもそもは妹用に作成したものだったので、今日は妹から借りてきている。
「懐かしいな。寝子島ってイベントごとが多いから、これ作ったのもずいぶん前みたいな気がするね」
　と言うあおいも、そのとき作った尻尾をつけてきている。
　猫耳に猫尻尾、それがまったく違和感がないのは、周囲の人がたいてい、そんな仮装をしているからだろう。なにせ『ねこのて』の従業員たちも、今日はそろって猫耳メイドさんなのだ。
「寝子島新聞部なのでーす！」
　ぱたたっと毛糸玉を追いかける猫みたいに、椿美咲紀が駆けてくる。
「なんと『ねこのて』が出張店を！　取材させてもらっていいですか！？」
　美咲紀は興奮気味だ。鼻息荒くメモ帳を広げた。