あなたの秘密を教えて｜リアクション

あなたの秘密を教えて

　ねこったー情報：渡り廊下

「……え？　なに？」
　知らない女が目を輝かせて近寄ってくる。
　あなたの秘密を教えてください、だとか。初対面なのに失礼極まりない。
　そう考え逃げようとしたのだが、目の前の人物のある部分に目を奪われた。
　きららの長く伸びた黒髪を、弘明寺能美子は羨んだ。
（いいなあ、この黒髪……やっぱ昔から染めたりしてるから、髪ボロボロでマジ格好悪いし）
　じっとそのつややかな長い黒髪を眺めてみたり、髪の毛の束を手に取ってさらさらと弄んでみたり。
　そんなことをしているうちに、きららはろっこんの発動条件を満たしてしまう。
「兄がいる」
　自分の意志とは全く関係ない所で、不意に出てきた『兄』という言葉。
　能美子は急速にその存在を意識させられ恐怖する。
「やめて！」
　能美子には兄がいた。
　見た目は優しいが、常識が通じない。暴力などはふるわないが、その奇行は人を恐怖に陥れるに足る。
　その兄とは中学時代、両親の離婚が原因で離別した。
　能美子は父親に、兄は母親に引き取られたが、その後疾走したという。
　それ以来会うことはなくなった。思い出して恐怖することも減った。
　しかし、蘇ってしまった。その兄の記憶が。恐怖が。
　両親が離婚するきっかけを作った、兄。
　能美子に対して多大なトラウマを残した、兄。
　そしてこの世で唯一、能美子の嫌いという感情を憎しみに変化させる、兄。
「やめてよ！　なんでっ……こんなこと……！？」
「大丈夫かい？」
　錯乱する能美子をなだめようと、信彦が声をかけた。
「うわっ！」
　しかし能美子は信彦を突き飛ばして、そのまま走ってその場から逃げ去ってしまった。
「ああっ、お待ちになって！」
　それがトラウマだろうがなんだろうが、きららはどこまでも知識を求めようとする。
　何故、秘密が秘密として存在しているのか、理解していなかった。
　ろっこんを駆使したところで、理解しようと頑張ったところで、他人の感情を理解することはできない。
　秘密を知られる痛み、トラウマを抉られる痛みを、きららは知らなかった。
『きらら君、次行こうか』
　後を追いかけようとしたきららを引き止め、飛鳥は次を促した。