あなたの秘密を教えて｜リアクション

あなたの秘密を教えて

　とある騒動が起こる前日の放課後。
「ハァ……」
　電工暁は悩んでいた。
（俺は……いったいどうしたら……）
　悩みに悩みに悩んでいた。
（少し前に、とある事情でしてしまったアレ……。その時以来、どうもアレのことが気になってしまっている。
　……やりたくない、やってはいけない。男としてこれはいかんものだと思っている。そうわかっているはずだ。頭ではわかっているはずなんだ……！）
　暁はうろうろ歩いてみたり、かと思えば立ち止まって頭を抱えてみたり、試しに屈伸をしてみたり、背伸びをしてみたり、見るからに落ち着かない様子でいた。
（……だが、アレをするのが好きになってしまった。時々どうしても、人がいないときにやってしまう……）
　暁は頭を抱えて悶々としていた。このままではいけないと、しかし欲望は抑えきれないのだと。
　このままアレをし続ければ、いずれは誰かにバレてしまうかもしれない。それはどうしても避けたかった。
「ハア……どうしよう……」
　しかし、現実はそう上手くはいかない。
「あなたは悩んでいらっしゃるのね」
　突如現れたのは、日光瀬きらら。この日の放課後も、きららは誰かの秘密を知ろうと学校中を行脚していた。
「何をそんなに悩んでいらっしゃるのかしら？」
　こんな悩みを、見ず知らずの女子に言えるわけもなく、暁はついつい、言ってしまったのだ。
「別にあなたが知らなくていいことですよ」
　彼女が、どれほど知に飢えた人物であるのかも知らずに、暁はそう、言ってしまったのだった。

　次の日、いつものように登校した暁は、自分の名前が書かれた貼り紙を目にした。

　電工暁の秘密：本当はやりたくないのに、女装が好きになってしまい時々やってしまう

　何が起こっているのか、瞬時に理解できず、暁は立ち尽くすことしか出来ずにいた。
「アカツキ君だ。おはよー、どうしたの？」
　その場に雨寺凛がやって来たことになど気付けるわけもない。
　返事がないことを訝しんだ凛は、暁の視線の先を見た。
「なになに、秘密？　もしかしてこれって、ろっこんで他の人の秘密を聴きだしてバラしちゃうって噂の人の仕業かな？」
　凛は続けてそこから先を読み、暁の呆然とした状態に納得。フォローの言葉を探した。
「ま、まあ気を落とさないで！　ほら、この学校って結構女装男子多いよね、いっそオープンになっちゃうっていうのもいいんじゃないかなぁ！」
　と、このように凛がフォローを続けている間、暁は徐々に我を取り戻していた。
　それに伴って知り合いである凛の声も徐々にはっきり聞こえるようになる。相手がところどころで『女装』という単語を口にしているのも、はっきりと聞こえる。聞こえてしまっている。
　つまりそれは、自分を知る人物に秘密がバレたのだと、気付いてしまったということ。
　もしかしたら、目の前にいるこの人は、知り合いによく似た別人かもしれない。そうだきっとそうに違いない、いやむしろそうであってくれ。
　そんな願いを込めながら、アカツキは声を振り絞った。
「あ、ああああ……あ、雨寺……？」
「そうだよ！　よかったー、アカツキくん戻って来たー」
　しかしその願いはあっさりと散る。
　その人物は他の何者でもなく、紛れもなく、凛なのであった。
「うそだ……うそだ……」
「だ、大丈夫？」
「こんなのうそだあああああああああああ！！！！！！！」
　学校中に響いたのではないかというほどの、悲痛な叫び。
　暁はその場から走り去り、そのまま授業にも出ず、まっすぐ帰路についた。
　その後一週間ほど、彼の姿を見たものはいなかったという。

　凛はというと、暁のあまりの絶叫に驚き、耳を塞いでいた。
　そしてその行動は、凛に一つの閃きをもたらした。
「いいこと思いついちゃったかも♪」
　彼女が何を思いついちゃったのか、それはもう少し後にわかることとなる。

このページにイラストを設定する