僕は寝子島高校に通う男子高校生だ。ごく普通に青春を謳歌し、人並みに秘密も抱えている、ごくごく一般的な男の子。
そんな僕は今、西日が眩しい放課後の教室で、苦手な世界史の教科書と睨めっこしながら宿題と格闘している。
が、早くも限界を迎えていた。
「歴史がいったい何の役に立つって言うんだ! こんな知識無くたって僕は平気だ!」
内容がさっぱり頭に入らない教科書を放り投げ、机に突っ伏した。すると教室のドアがガラリと開き、
「あなたは今、『知識が無くても平気』とおっしゃいましたね? どうして? どうしてあなたは知識を求めないのでしょうか」
と、声を掛けられた。
机から頭を持ち上げてその声の方を向くと、女の人がいた。長く伸びた黒髪がよく似合う、とても綺麗な人だ。
「えーっと……どちら様ですか?」
「あら、失礼いたしました。わたくしは日光瀬 きらら(ひみつせ きらら)。寝子高の2年生です。それよりも、先程の質問にお答えいただければ幸いなのですが」
どうして知識を求めないのか。質問の意図はよくわからなかったが、一先ず、必要がないから、とでも答えておく。
「もったいないわ! 実にもったいない! 知識ってね、素晴らしいの! 素敵なのよ!」
穏やかだったその人は、一変、目を大きく見開き、その興奮を顕にした。
「わたくしはなんでも知りたいの! 一般的にはくだらないと言われていることでも、わたくしにとっては大事な大事な知識の一つなのよ!」
「は、はあ……」
「ああ、この未知に触れられる喜び! 脳に知識が溜まっていく高揚感! そして無知による不安感と恥が解放される快感! 素晴らしいわ! これこそが、知識こそがわたくしの全て! 知識欲こそがわたくしの原動力なのよ!」
「は、はあ……」
「でもね、わたくしのちっぽけな頭には限界があるの。十数年間生きてきて、まだこの世のほんの一部すら把握するに至っていないの。例えば宇宙の果てであったり、例えば地球の裏側の現在であったり、例えば日本全国のご当地ゆるキャラであったり、例えば国民的アイドルの一日平均摂取カロリーであったり……」
爛々と輝くその目が、僕をロックオン。
「……例えばあなたのことであったり」
それからゆっくりと僕に近付き、真ん前に立った。
「だから……ね?」
彼女は両手を僕の頬に添え、息がかかるほどの距離で真っ直ぐに僕の瞳を見据える。
「あなたの秘密を教えてくださる?」
言うやいなや、彼女は「いーち、にーい」と数を数えはじめた。
あまりのことに驚いて固まっている僕など気にも止めずに、そのカウントは2桁に到達しようと――
「10」
「■■■■■■■■■■■■」
「うふふ、ありがとう」
「……え?」
一瞬、意識が飛んだ。何かを言ったような気がする。それが何かはわからないが、僕にとってはとても大切なことだったような。
彼女は、何かを愛おしそうに丁寧に手帳に書き込んでいった。
書き終えた後、それを指でなぞりながらじっくりと読み、ふう、と満足気に息を吐いて、手帳をぱたんと閉じた。
「本当はもっとあなたのことを知りたいのですけど……この力は一人につき一回しか使えませんの」
「は、はあ……?」
「そんなことより、コレを独り占めにするだなんてもったいないわ。あなたのこと、みんなも知りたがっていると思うの!」
少女は携帯電話を手に取り、何かを打ち込んだ。
「ね、みんなにも教えてあげなくちゃね」
何のことを言っているのかわからなかったが、にっこりと微笑む彼女を見ていると、僕も同じように笑顔を返すしかなかったのだった。
次の日、教室に入るとクラスメイトが一斉に僕を見た。
白い目を向ける女子、にやにやしている男子。
にやにやしている男子の一人が、僕に話しかける。
「なあ、これほんとかよ?」
目の前にA4サイズの紙が差し出された。
「えっと……僕の名前と、クラス? それから……僕の――」
――秘密:女性用のぱんつを履くと興奮するから、たまに履いている
「は、はああああああああ!?」
「ねこったーとか、ネコchとかにも同じようなことが書かれてたぜ」
僕には覚えがあった。この秘密を口に出した覚えは欠片もないが、これが誰によるものかは知っているはずだ。
そう、例の黒髪の彼女。
「で、実際どうなんだ?」
「え? あ…………え……? な、何が……?」
あまりのことに思考停止し、とっさに思うような反応が出来ない。
「何って、例えばどんなのがオススメーとかさ!」
「え……? あ、レース付きの……シルク製のやつとか、肌触りが最高、かな……」
思考回路がぐっちゃぐちゃなまま答えようとしたのだから、そりゃあ口を滑らせもするだろう。
さっきまでにやにやしていたはずの級友の顔は引き攣り、気まずそうに僕から離れていった。
どこか怪しげな紙ペラ一枚より、本人の口から飛び出した言葉のほうがリアルなキツさを伴っていたらしい。
その後冷静を取り戻した僕は必死に弁解をしたが、それがクラスメイトたちに届くことはなかった。
願わくは、あの知りたがりと、善意の情報提供による犠牲者が僕で最後になりますよう――。
お久しぶりです、敷石です。
12歳以下の男子と18歳以下の女子のぱんつはひらがな表記という個人的なこだわりがあることを、ひとまずここで述べておきたいと思います。
今回はモブさんが履いていたものが例外的に女子用のぱんつだったため、男子高校生であったにも関わらず、ひらがな表記を使わせていただきました。
あくまで私個人のこだわりであるので、皆様はお気になさらず。
と、そんなことはどうでもいいとして。
◆シナリオ概要
知りたがりの女子生徒が、ろっこんを使って皆様の秘密を聞き出そうとします。それだけではなく、ネット上や学校の掲示板等にも晒してしまいます。
秘密を聞き出すのをやめろと言われても、知識欲の塊である彼女の考えは変えられないでしょうから、秘密を晒すのを止める方が賢明でしょう。
知りたい!>>>>>教えなきゃ! くらいの優先度なので、絶え間なく彼女の知識欲を満たしてやれば、少なくとも携帯から意識を逸らすことはできるかも?
※お願い※
アクションの1行目に【キャラクターの秘密】の記載をお願いします。リアクション内で描かれるか否かは、皆様のアクション次第となります。
それが記載されておらず、かつ不用意にきららに近付いて何も対策がなされていないアクションであった場合、何かしら秘密がありそうなそうでないような、非常に曖昧な描写になってしまうかもしれません。
◆場所・時間
寝子島高校内。
きららが動き出すのは放課後になってからとなります。
◆NPC
日光瀬 きらら(ひみつせ きらら)
寝子島高校2年生。黒髪ロングストレート美人。
この世のありとあらゆる事柄を知り尽くしたい女の子です。忘れないわけではないので、彼女自身の知識量は人並みより少し多いくらい。
自分が知り得たことを、せっかくだからみんなにも教えてあげなきゃ!というはた迷惑な使命感を抱いています。悪意は無さそうです。
寝子高関係者であれば、名前と顔やその他外見的特徴が一致する程度には、皆様のことを知っています。
知識が詰め込まれた手帳と携帯電話、有益な話を聞き漏らさないためのレコーダーを所持しています。
知りたがりが過ぎる以外は歳相応の女の子なので、特別力が強かったり、足が早かったりすることはありません。
・ろっこん
発動条件:対象の顔に触れ、教えてと言い10数える。
能力:対象自身の秘密を一つ話させる。一人につき一回のみ有効。
既に秘密を聞き出されたということでも構いませんし、きらら関係なしに今まで言えなかったことを告白するでも構いません。寝言でうっかり好きなおにぎりの具を呟いてしまうこともあるでしょう。
シナリオガイドはコメディ調で、シナリオジャンルにもコメディとありますが、必ずしもそうなるとは限りません。それももちろん皆様のアクション次第です。
それでは、ご参加お待ちしております。