あなたの秘密を教えて｜リアクション

あなたの秘密を教えて

　ねこったー情報：まだまだ南校舎一階、玄関付近

　もはや正面玄関付近はバトルフィールドと化していた。
　モップVSデッキブラシの攻防と、素手対素手のどこかおかしな喧嘩。
　徐々にその二つの別々の戦いは互い違いに入り乱れ、一つの乱戦になろうとしていた。
「随分と楽しいことになってるんすね」
　アレン・クロフォードはその状況を冷やかしにやってきた。
　どうやら面白い能力を持っている人がいるらしい。
　アレンは、うずくまって呼吸を整えているきららに近付いた。
「日光瀬センパイ、最近ネットに他人の秘密を面白半分に流してるのはあんたっすよね？」
　きららはこくこくと頷き、そしてアレンに手を伸ばそうとする。
　しかしアレンはそれをあっさりと避ける。
「下賤な好奇心と【使命感】っていう名の免罪符を笠に着て、他人に踏み込むあんたは最低じゃないっすかね？」
　アレンは笑顔でそう言い放った。
「下賤で最低……ですか。げほっ……」
　まただ。またもきららの心が揺れる。自分の信じてきたものがどんどん崩れていく。
「何故、あなたは……いえ皆さん口を揃えてそうおっしゃるのでしょう。皆さん、知識が欲しいとは、思わないのでしょうか」
　話が早い。
　アレンはにやりと笑って、言った。
「俺はあんたとそういう話をしに来たんすよ」

　全速力で階段を駆け下りる少年がいた。彼の名前は逆巻天野。
　その勢いに乗って、踊り場から跳躍。
　手始めに、一番階段近くにいた龍八の頭を踏みつけた。
「君たちソコどいて、ソイツ潰せない」
　続いて龍八と相対していた斗南も踏み台にするが、斗南は天野の着地点を見極めデッキブラシの柄で防いだ。
　デッキブラシの柄は頭よりも安定した足場となり、軽快に次へと移る。ぴょんぴょんと次、またその次へと足場を移し、天野は着実にきららへと近付いた。
　きららの敵だろうが味方だろうが関係ない。邪魔な者は踏み台にする。
　彼の目的は、きららを潰すこと、そして何故秘密をばらされたくないのか気付かせること。
「俺と取り引きしましょうよ、センパイ」
　天野は、きららにそう話しかけている声を聴きとった。
「させないよ」
　手に持っていた文房具を、アレンに向かって投げる。
　アレンの頭に、さくさくっと文房具がいくつか刺さった。
「痛いじゃないっすか」
「悪巧みをする方が悪い」
　しかし天野はアレンに興味はない。狙うはきらら一人。
　きゅっとアレンを踏み抜き、天野はきららと対峙した。
「それで先輩、秘密をばらしてるの、貴方ですよね」
　尋問しながら、きららの手の動きを、目で追う。自分に向けようとしている。
　その手を軽々と躱し、話を続ける。
「人の秘密を知っていても、何故秘密にしたいのかは知らないんですかね？」
「ええ。お恥ずかしながら」
　やっぱり、この人は大事なことをわかっていない。
「では、秘密を暴露され悲しむ人の事は知っていますか？」
　天野の言葉は、ほんの少し前、橘千歳から言われたことによく似ていた。
　初めて自分の価値観を疑問視させた、あの言葉に。
「悲しむ人が、いるんですの？」
　きららは悲しそうに言った。
「そうです。みんな、悲しみと一緒に秘密も隠しているんです」
「わたくしは……知らず知らずのうちに、皆さんを悲しませていたのね……。本当、無知は罪ね」
　このことは、知らないでは済まされませんね。
　きららはそう付け加えた。