猫鳴館、自治会長選任戦1370春　～天使の羽選手権｜リアクション

猫鳴館、自治会長選任戦1370春　～天使の羽選手権

●候補者たちの準備：ミミ編

　ミミ・アハユルは、ハワイから来た褐色肌の１年生である。先だっては入学早々、三寮祭で寮内をハワイアンに染めるのに一役買った猫鳴館のホープだ。
　彼女の挨拶はこう。
「アロハー、みのり」
「アロハ、ミミさん」
　一つ年上の神野美野梨は穏やかに微笑んで挨拶を返す。
「自治会長選、立候補したのね」
「`Ae。ミミがここに入って、まだ1ヶ月。もっと長いような気がしたけど気のせいだった。でも、ほんといろいろあった。三寮祭は、アロハ・オエだったし、お部屋をハワイ風にしても誰にも怒られない。自由があり、ゆるやかな秩序もある。ミミには最高の場所」
「猫鳴館をそんなに好きになってくれて嬉しいわ。それで立候補を？」
　ミミははにかむように頷く。
「選任戦に出たのは正直、ただのお祭り気分。他の候補の２名は上級生だし、この島に来たばかりのミミなんかより人脈は広いだろうし……勝ち目は最初からないのかもしれない」
「あきらめないで。私はミミさんを応援してるわ。羽根、作るの手伝うわよ」
「ほんと？　嬉しい！」
　ミミは美野梨にぎゅっと抱きつく。
「どうしようか困ってた！　みのりが手伝ってくれたら百人力！　みのりの分はミミが手伝う！」
「え、私も飛ぶの？」
「もちろん！」
　期待でキラキラな瞳を向けられ、美野梨は、一つため息で覚悟を決める。
「わかったわ……化学部としての趣味力の見せ所ね」
　美野梨はさっそく五月のジェーンについてネットや文献を当たってみた。
　特別な条件が揃った五月の晴れた日に吹くという奇跡の風『五月のジェーン』。その風に乗れば、どんなヘボい飛行機でも飛ぶというが、本当だろうか。情報は乏しかったが、寝子島書房の『実録！　三夜湖の伝説』という本の中にかろうじて短い記述を見つけることができた。曰く、
「平安時代の貴族が薄絹を纏って空を飛んだ……また、戦国時代には、甲冑の武将たちが羽織ったマントをたなびかせてムササビみたいに三夜湖の空を滑空した……？」
「おおー、すごい！」
　ミミは素直に驚いているが、美野梨としては眩暈を禁じ得ない。
「……眉唾もいいところね……」
　しかし『ムササビみたいに』のくだりは、美野梨の灰色の脳細胞をビビっと刺激した。
「たしかにムササビスーツが一番実用的だけど、羽らしくないのが難点ね。折角だから、ハワイな感じも出したいし……二つ作るなら点数が倍になるミミさんの方を優先して……」
　うんうん唸りながら、美野梨はノートにアイデアを書き留めてゆく。
　ミミは頬杖をついてその様子を見守っていた。
「みのりがどんな羽根作ってくれるか、楽しみ、楽しみ」

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