ライブラリ・ラビリンス２｜リアクション

ライブラリ・ラビリンス２

■青い部屋
　青い部屋には、陽太と綾花が調査に向かっていた。
「たぶんさ、武道くんがメモをおいといてくれてると思うんだよねぃ」
「そうなのですか？」
　うん、と頷いた陽太は続けてへらっと笑う。
「まあ、メモなんかなくてもさっきみんなが教えてくれた話で
十分わかるんだけど、一応ね。
ところで相談なんだけど、綾花ちゃん、ピアノ弾ける？」
「は？　はあ、まあ、少しは……」
　マイペースに話を進める陽太と、陽太に圧倒される綾花は、
青い部屋の探索を開始した。

　陽太は、武道が見つけたと言っていた
ピアノの調律工具を引っ張り出すと、
早速ピアノの調律に取り掛かった。
楽譜や本も気にならないわけではないが、
それよりも将来調律師を目指している身としては
ピアノがボロボロの状態で放置されている方が
気にかかって調査どころではなかった。
幸い、音はまだ出ると修が言っていたので、
復活不可能なほどの大ダメージ、というわけではなさそうだ。　
完璧に直すとまではいかなくても、
多少聞ける程度にはメンテナンスできるだろう。
適当な布で苔や蔦を取り除き、鍵盤もできる限り綺麗に拭き、
不慣れながらも調律工具と一緒に入っていた
音叉を使って音をチューニングを開始した。

　綾花は、本棚の中身を中心に探索を開始していた。
欠けている楽譜はないか書き込みのある楽譜はないかと
調べてはみたものの、正直なところ子供が扱っていたせいだろうか、
楽譜は欠けだらけだし、あちこちに弾き方の指示が書き込まれていて
ここに何かのヒントが隠されていても絶対にわからない自信があった。
次いで、本のカバー裏や内容も調べてみたが、
東館右の部屋にあった専門の学術書に比べ、
こちらは読めない言葉で書かれているようなこともなく
解読に苦労することはなかった。
もしかして、なんのヒントも隠されていないのではないだろうか、と
綾花が焦り始めた時、ふと、陽太が綾花を呼んだ。

「綾花ちゃん、ちょっとちょっと」
「なんでしょう」
　綾花を手招きする陽太のもとに向かえば、
陽太は初めより幾分か綺麗になったピアノを示しこういった。
「綾花ちゃん、ちょっと弾いてみてよ」
　確かに、綾花はピアノを弾けるとは言ったが、
今ここで引く必要はあるだろうか。
しかし、面倒見がよく優しい綾花は、
こういった頼みを断り切れないところがある。
結局、本棚から簡単なエチュードの楽譜を持ってきて、
陽太の前で一曲披露することになった。
　ぐちゃぐちゃになっている椅子に座る気にはなれず、
立ったまま、少し綺麗になった鍵盤に指を走らせる。
さすがに手入れが完璧なピアノと比べると
どこかぼんやりとした、物足りない音ではあるが
それでも柔らかな音色はどこか物悲しく廃墟の中を駆け抜ける。
楽譜の上を踊る音符を指先で叩いていた綾花は
一か所だけ、音の鳴らない鍵盤があることに気が付いた。
「陽太さん、これ……」
「うーん、やっぱりそこだけ鳴らないか。
なんかわからないけど鳴らないんだよねえ。
ちなみにそこは、何の音？」
「……ファの音ですね」
　ファ、ね。と記憶に刻むように復唱する陽太。
ふと気が付くと、いつの間にか辺りはだいぶ暗くなり始めているようだ。
前回と同じならば、そろそろ退却の頃合いだろう。
まだピアノを調べたい様子の陽太を綾花が促して
ふたりは青い部屋を後にした。

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