【秘子ちゃんのハイパーカプギア大戦Ｎ（１）】

　無限に広がる大宇宙……のどっかそのへんにて。
　独裁者の圧政に苦しむスペースコロニー『RKM003135』へ、今日も女王のプロパガンダ放送が響き渡ります。
『んふふ……カプギアの無慈悲な女王こと、わたくしです。さ、国民の皆さん、今日も元気にギアバトルに励んでくださいね？　全てはカプギアの強さで決まるのですから。んふふふ♪』
　国中のテレビに登場した女王胡乱路 秘子は、ぎらっぎらに輝くピンクのド派手なドレスを身に着けて、しゃらららん。マイク片手にご満悦でして、くるくるくると無意味に回っておりました。
　そう、ここは非情なディストピア！　全てがカプセルギアの強さによって決定される、仁義なきカプギア至上主義社会なのです！
　出世するにはギアバトルで上司を負かさなければなりませんし、学校のテストだって先生とのバトルです。街のヤンキー同士がぶつかり合えばギアバトル抗争が勃発ですし、夕食のおかずの取り合いだってバトルで決着をつけることになりました。勝者が決まる頃には、最後のからあげもすっかり冷めていたということです。
「そんなの我慢できない！　……という声が近頃、街では上がっているようですね。カプギア革命、いざ起ちあがれ国民よ！　といったところでしょうか。んふふっ」
「そんなところだね。まあ私はただカプギアで遊びに来ただけだったりするけども」
　さて、ここは女王の住まう豪勢な宮殿です。
　単身乗り込んできたのは、旅鴉 月詠！　手のひらの上では愛機、その名も『Ｎ君』がばっちりスタンバっております。
「しかしなあ秘子。自分で無慈悲とか言っちゃうあたり、無慈悲とはちょっと遠いと思うよ？」
「あら、そうなのですか？　いろいろなアニメ番組を見て、キャラ作りを研究してみたのですけれど。まだまだですね。んふふ」
　メタ発言はさておき、革命戦士と呼ぶには気安いカンジ……それもそのはず、月詠さんは言葉どおりに遊びに来ただけなのでした。
　ともあれ侵入者とあらば、女王の抱える精鋭カプギア軍団、通称『秘子ちゃん親衛隊』が黙っちゃおりません。つまるところ彼らが、コロニーにおけるカプギア圧制の尖兵であるのです。
　ずざざざざ！　瞬く間に並び立つ黒い影。手に手にカプギアを携え、問答無用の多対一バトルが開始！
「ふむ。まずは対集団の変則バトルというわけか。では、秘子を楽しませてあげようかな」
「まあ、楽しみですね♪」
　すかさずしゅぱっと飛び出すＮ君……しかしながらその見た目は一見して、単なるノーマルカプセルギアにしか見えません。取るに足らずと見た精鋭軍団、さっそく攻撃開始！
　ちなみに彼らのギアは画一的で、マッチョな二足歩行の黒猫という佇まい。ネコテックの域を逸脱した感あふれるネコテック製カプセルギア、その名も『プリティキトゥン』であります。
　手にしたトゲトゲ鉄球付き棍棒を、Ｎ君めがけてぶおんっ！
「人は見かけによらないものだ。カプギアも然り、ってね」
　月詠あらためギアマスター『カラス』は慌てず、しゅぱんとスマホをスワイプ。どう見てもノーマルな右腕パーツから、どっぱーん！　きらきら七色に輝く紙吹雪のようなクラッカー型散弾銃が火を噴き、プリティキトゥンはまとめて吹っ飛びました。
　Ｎ君はノーマルギアの皮をかぶった、バリバリのカスタマイズギアだったのです！
「まあすごい！」
「まだまだ。これからだとも」
　喜ぶ秘子の反応に答えてか、Ｎ君は自分にソックリのデコイを作り出して煙に巻きつつ、派手に散弾をぶちかましながら接近すると、左腕に隠されたクローアームを展開。がぶり！　刃を食いこませたままぶん回して、次々にプリティキトゥンを撃破していきます。
　いっぽう、そんな月詠の激しいバトルを、秘子はのんびりお茶しながら観戦中です。
「女王さま。お茶のおかわりはいかがですか？」
「あら、ありがとうございます新田さん。いただきますね……あっ、旅鴉さんそこです、いけーっやれーっ♪　んふふふふっ」
　のんきな女王さまの側に控えるメイドさんは、新田 樹です。
　クラシカルなメイド服に身を包み、従順に付き従うそぶりの樹。けれど、女王は気付いてはいませんでした。
「ふふふ……」
　メイドさんが後ろでにやーり、怪しくほくそ笑んでいることに……波乱の予感！



　すちゃらかな独裁者への抵抗活動の火は確実に盛り上がり、やがて大きな革命となって燃え上がります。
「全軍突撃ーーーッス！！」
　その旗印となったのが、古尾 桐子！　マスターネーム『キリコ』でありました。
　愛機『トルーパー』を駆り、先陣を切ってカプギア軍団へと突っ込みます。
　先頭のプリティキトゥンめがけ、円の軌道を描きながらヘヴィマシンガンを叩き込みながら鋭く接近。エネルギーチャージ、右腕のパイルバンカーをセットアップ！
「撃ち貫くッス！！」
　どぎゃんっ！！　一撃のもとプリティキトゥンを撃破すると、すぐさまローラーダッシュで次の標的を狙います。
「うちはただ、カプギアを楽しんでただけだったんッスけどね～」
　とは、キリコの言葉です。たまたま革命軍を率いることになっただけで、本来の彼女は単純にカプセルギアが好きなだけの、ちょっと奔放な女の子なのです。
「でも、カプギアはみんなで楽しむものッス！　勝っても負けても楽しいのが一番ッス！　だから、カプギア軍団はやっつけるッスよー！」
　この真っすぐなところが、革命に燃えるギアマスターたちを惹きつけるのかもしれません。
　だから、キリコが少々突っ込みすぎたとしても、
「うおーっ、砂煙を上げながらの突撃！　燃えるッス！　って危ないッスー！？」
「なんの。カプギアおじさんにお任せだよ」
　すぐさま仲間がフォローに入ってくれました。
　激シブな重戦車型カプギア『Kugelblitz』を操るのは、マスターネーム『Wittmann』こと星山 真遠！
「俺、カプギア始めたのは最近になってからなんだけどね。ま、これもネタのためと思って、真面目に頑張りますか」
　某ＰＢＷにて『久慈たから』として活動するゲームマスターという副業を持つ、本業は司法書士のWittmann。クレバーな参謀役兼リーダーの護衛役として、隙なく立ち回ります。
「おおっ、強そうなカプギアッス！　無骨でうち好みッスねー」
「そうか？　しかしまぁ、いくらハードウェアが強くても、結局は運用する人間次第……というのは、いつの世も変わらぬ真理だがね」
　Kugelblitzは重厚な装甲でキリコのトルーパーを守りつつ、両腕の88mmキャノン砲をどかどかとつるべ撃ち！　砲撃音が鳴り響くたび、プリティキトゥンがまるで紙人形のごとくに吹き飛びます。
　やがて真正面からまともにぶつかり合う、革命軍と女王の精鋭カプギア軍団。
　ちなみに革命軍のメンバーは実にバラエティに富んでおりまして、なかにはこんなに可愛らしい、にゃんこが混ざっていたりもします。
「ギアマスター、『ねこざ　みつえ』！　参戦するですにゃ！」
　ミーツェ・Ｍ・フェリスは愛嬌たっぷりな猫型ギア『ねこざ　ノエル』を操り、仲間たちとともに大奮闘！
　ふわふわな可愛らしい猫型ヘッドの額の宝石から、にゃーーーっとビームを発射！　右腕の杖からは綺麗な流れ星をきらきらきらっと降らせて、プリティキトゥンをどかすかとやっつけていきます。プリティキトゥンもボディはマッチョな成人男性風ながら猫型ギアではありまして、ちょっぴり気は引けましたけれど、手を抜いている余裕はありません。
「ノエルも結構強いんですにゃー！　とにゃーっ」
　左手のオーブからは白くあたたかな光を放って、敵軍を牽制。プリティキトゥンの棍棒は、ボディにはためくマントでひらりっと華麗に回避！
　彼らの視線の向こう、すぐそこには女王が住まう宮殿がずずんとそびえているものの、敵カプギア軍団は数が多くて、なかなか近づくことができません。
「味方の陣形が崩れてきたな。リーダー、救援に回ろう」
「了解ッス！　いくッスよー！」
「うにゃー、ミーツェも突撃ですにゃー！」
　wittmannがキャノン砲で敵陣を崩したところへ、ミーツェがノエルを突っ込ませて流れ星をきらきらきら。ちゅどどどどどん！　敵が怯んだ隙に肉薄したトルーパーがパイルバンカーを一撃！　上空へどかんとかちあげたプリティキトゥンめがけ、88mmキャノンが炸裂！
　革命軍は連係プレイで攻め続けます……けれど敵の群れは分厚く、どうしても突破することができません。wittmannは眉根を寄せて、つぶやきます。
「なにか、きっかけが必要だな。均衡を崩すためのきっかけが……」
　混沌とした戦況でも、革命軍の決死の猛攻は続きます。
　そんななか。戦力が均衡する両軍の側面にて、いくつかの動きが起ころうとしておりました……！