嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！｜リアクション

嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！

【おねえちゃんといっしょ！】

『僕と北風貴子さんは、恋人！　……は、いや、うん。さすがに色々まずいよね。えーとだから、そう！　姉妹である！』
　たいそう迷った末に、伊賀解理のウソはそんなところへ着地しました。英断であったと言えるでしょう。
　だって恋人同士だなんてことになったらそりゃあもう、あれやこれやと……抑えが利かなくなってしまうでしょうから。
「貴子さんの意思を無視して、ほら。ね。そういうことをしてしまうのは、本意ではないわけだよ。うん」
　誰に向かっての言い訳か、つまり解理はすこぶるストイックで良識派というわけなのでした。
　ヘタレとか言わないよ？

　そんなわけで貴子が姉、解理が妹という設定にて、一つ屋根の下。小さくもあたたかい、ほっとするような一軒家に、母子家庭として彼女たちは暮らしておりました。
「まったく、お母さんったら……！」
　貴子お姉さんは腰に手を当て、ぷりぷりとお怒りです。
「いつも言ってるでしょう？　洗濯物はきちんと畳んでしまっておいてって。見てこのタンスの中、ぐちゃぐちゃじゃない……！」
「だーって、めんどくさいんだもーん。貴子ちゃんがしまってくれたほうが綺麗だし」
「ああ、もう……！　ほら、解理からも言ってやってよ！」
「はは……」
　姉妹の母はなんというか、ありていに言い表すと究極のダメ人間でありまして。料理はできない掃除もできない片付けも全くダメ、と家事の腕前は目を覆わんばかりなのです。
　かと言って解理も、ダメダメな母親ほどではないにしろそこはかとなくダメな自覚はあるもので、強くは言えません。
「まあまあ、貴子さ……お、お姉ちゃん。お母さんがダメなのは今に始まったことじゃないし」
「あ、解理ちゃんまで。ひど～い」
「甘やかしちゃダメよ、解理！　お母さん、放っておいたらいつまでもこうなんだから！」
　なんだかもう、どっちが母親だか分かりません。こんなときの貴子お姉さんは取りつくシマがないほどの剣幕でして、解理もお母さんにこっそりシンパシーを感じつつ、苦笑いを浮かべるのでした。

　とはいえ、だらしのない人間には実に手厳しい貴子お姉さんも、キチンとしている間は、優しくて素敵なお姉さんなのです。
「ゆえに僕は夕食の片づけを手伝い、心証を良くしてからハグしたり猫のようにすり寄ったりして甘えるのだ。完璧な計画だなフフフ……」
「解理、どうしたの？　手が止まってるわよ」
「うわっ、はい！　今やりますすぐやります！」
　わたわたと洗剤につけた食器を流し始めた解理に、貴子はくすりと笑います。なんとも柔らかくて、うっかりすると見とれてしまいそうです。
「食事の支度や後片付けくらいできないとね。いつかあなたに恋人ができたとき、お母さんみたいに愛想をつかされたくないでしょう？」
「キツイなぁお姉ちゃん……」
　恋人。解理はふと、思います。
（憧れの先輩が親同士の再婚で肉親になって、禁断の恋……なんて、恋愛映画とかでよくあるよね。いや僕と貴子さんはノンケだし、そういう関係にはならないけど！　ちっともそんなことは望んでないけど！）
　本当かなぁ～？
（モノローグにツッコむなよぉ！？）
「ふふ。ヘンな解理」
　しばしかちゃかちゃと、食器が擦れる音だけが響きます。
　ちょっぴりキンチョーする解理。隣には、憧れの先輩……今は解理だけの、お姉ちゃんです。
　ああ。いいなぁ。しみじみ思います。
「えっと……お姉ちゃん？」
「なあに、解理？」
　きっとこんな状況は、明日になったら終わってしまうのでしょう。
　それなら存分に堪能しなくっちゃ、もったいない！
「お手伝い頑張ったから、ご褒美プリーズ。膝枕プリーズ！」
「もう。解理はいつまでたっても甘えん坊ね。いいわよ、でもこれを全部綺麗に片づけてからね？」
「わーい！」
　解理は幸せな一日を満喫したということです。