嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！｜リアクション

嘘＜ユメ＞が現実＜ホント＞になるセカイ。それが、らっかみ！

【夕焼けのふたり】

　羽生碧南の長身は、どこにあっても目立ちます。愛らしさと格好良さがないまぜとなった彼女の風貌は、とかく人目を引きました。
「……まだかな」
　それがそわそわもじもじとして、頬を可憐に赤く染めながら瞳を潤ませているのだから、ここ、寝子島高校の中庭のベンチへ腰かけた彼女を見かける学生たちには、察することができたでしょう。
　ああ……彼女は恋をしているのだ、と。
「ふうっ」
　実際、碧南はこうして恋人を待つ間、早鐘を打つ胸に手を当てながら、複雑な思いを巡らせておりました。
　彼は飄々としていてどこか掴みどころがない、まるでさすらう風のような自由人。ちょっぴり変人で、けれどだからこそ唯一無二の個性をたたえていて、そんなところが碧南の心を強烈にとらえて止みません。
　少々気まぐれなところもあり、こんなふうに待ち合わせていると、ついつい不安になってしまいます。
「来て……くれるかな」
　ぽつり。吐息とともにもれたそんな言葉は、とおりすがりにそれを耳にした学生たちまでもやきもきとさせてしまいます。
　いったいどこの誰なんだ？　可憐な彼女をこんなにも待たせているのは？
「やあ。待たせたかな」
「あッ……」
　一瞬のことでした。まるで天から降る照明がぱっ、と切り替わったかのように、碧南の笑顔が灯ります。
「せん……ぱい。あの、そんなに待ってませんから。えと、あの。こんにちは……？」
　やっと来てくれた！　安堵から緩んだ頬が、やがて少しの緊張と大きな喜びに染まります。
　嬉しさのあまりちょっぴりキョドってしまっても、彼……鷹取洋二には、気にするそぶりもありません。神経質で凝り性な彼ですけれど、恋人を労わる気持ちには満ちあふれています。こう見えて人柄はとっても誠実なのです。
「そうかい？　なら良かったよ。じゃあいこうか」
「は……はい」
「うん？　緊張しているのかな？」
　ぴくり、思わず跳ねた碧南の肩を、洋二は優しく抱き寄せます。
「大丈夫。心配はいらないよ」
「は、はい。がんばります……」
　恥じらう乙女の艶めく表情にどこか悶々とするギャラリーを置き去りにして、ふたりの姿は校舎のなかへと消えていきました。

　しばらく後。
　碧南は美術室にて、しなを作りちょっぴりセクシーポーズを取っておりました。
「ああ、いいよ！　とてもいいよ碧南くん！」
「そ、そんな。先輩、恥ずかしいです……」
「君の端正な顔、整ったボディライン！　恥じるところなどどこにもあるものか。やはり君は最高だよ！」
　つまるところ、洋二の絵のモデルを引き受けているのでした。
　もちろん服を着て、ですけれど……前髪の間から覗く彼の瞳がじっと自分を見つめているのだと思うと、碧南はどきどきが止まりません。彼が筆を走らせるたび、その音がふたりきりの美術室に響くたび、なんだか一枚一枚、するりと服を剥ぎ取られていくような錯覚さえ覚えます。
　碧南は紅潮して、洋二はキャンバスと碧南へのめりこみ、互いの想いは高まるばかり。
　そのうち日が傾いて、夕暮れの橙色がすっかり美術室を染め上げた頃に。
「よし！　今日はこのくらいにしておこうか。続きはまた明日に……」
「せ、先輩！」
　思わず口をついて言葉が、想いが飛び出しました。
「……先輩……キス、してください……」
「碧南くん……」
　夕日が作るふたりの影が、そっとひとつに混ざり合います。
　初めてのキスに、碧南はとろける飴のような甘さをほんのり、感じました。