R&R Agency：file2-01：落神伝説レポート｜リアクション

R&R Agency：file2-01：落神伝説レポート

● 落神神社・１

　緑が細い坂道にせり出してきている。
　濃い緑の香りが鼻腔を擽る。
　さえずるのは郭公。
　よい声で歌い、森の中に響いている。
　落神神社を探索することにした、椿美咲紀、骨削瓢、御剣刀、夜海霧楓、そして坂内梨香の四人は、寝子高の裏手の山道をえっちらと上っていた。猫鳴館住まいの瓢はひょいひょいと慣れた足取りだし、身体を鍛えている刀や楓も涼しい顔だが、荷物の多い美咲紀は天気の良さも手伝って少し汗ばんでくる。
「何を持ってきたの？」
　梨香が聞くと、美咲紀は一つずつ数え挙げた。
「マグライトと簡単な大工セット、バケツ、雑巾……お掃除が必要そうな気がしますからね。それから、新聞部のたしなみ、デジカメとＩＣレコーダーも忘れてません！」
「大したものね」
「私、実家が神社なので、放っておけない気持ちなのです。多少痛んでいても現代まで伝わっている神社なのできっと何か文献や書きつけとかの資料がどこかに残されていると思うんですよね。探しますとも！　ついでに痛んでいる部分はちゃんと直しておきたいですし」
「それでその大荷物なのね」
「そうなのです！」
　美咲紀はまたせっせと歩き出す。
　瓢がひょいと梨香に並ぶと、両手を頭の上に当て、道化のように足をブラつかせて歩いた。

「やぁやぁ坂内はん、リ・ウグウ以来かね。元気そうで残念だよ」
「同文で返していい？」
「あの時は色々あったが、気にせず仲良くしようじゃないかい」
「気にしないわよ。甘くは見ないけど、あなた面白いもの。必要であれば手を組むわ。昨日の敵は今日の友って言うでしょ。……ま、その逆もしかり、かもしれないけど」
　にやにやと笑う瓢と梨香は、それなりにいい距離感を保っているようだ。
「時に坂内はん、星幽塔には手を出さないんで？　あそこの妖精と落神の一柱は既知の仲だという。そうでなくても、もれいびであるおたくなら空に浮かぶ無粋な塔が見えているはず。探求心が強い割になぜ今まで放っておいたのかねぇ？」
「攻めてくるわね。興味はなくはないけど、今のところ、こちらの世界のフシギで手一杯なの」
　お、と前方を行く楓が声を上げた。
「落神神社に着いたぞ」

「相変わらず草ぼうぼうだなあ」
　刀がいうと、美咲紀も汗をぬぐい、ぐるりと境内を見回す。
「植物が一番伸びる時期ですからねー。草は一旦踏み分けて、獣道的に通れる所を作りましょー」
　植物に強い美咲紀が、よいしょ、よいしょと雑草の根元を踏んで倒し、道を作っていく。
　お社近くまで一本道を作ると、美咲紀は男性陣にその外周を一周できるような道を作るよう頼んだ。
　道ができると、刀と美咲紀が資料として外観や周囲の写真を撮る。
　刀はこれはご神木だろうか、これはなにか謂れのある石だろうかとひとつひとつ見て回る。どれもふつうの木や石のように見えたが、ふと、神社を取り囲むような形で均等に置かれている丸石があるのに気が付いた。
「ストーンヘンジ？」
　丸石は雑草に覆われたら見えなくなるほどの大きさで、ストーンヘンジの規模に比べたらずっと小ぶりだ。
　美咲紀も気が付いて写真を撮る。
「この石は人為的に置かれたものっぽいです。神社を中心に円を描くように置かれているみたいですよ」
「なんか、魔法陣とか封印っぽいな。神社ってこういうのよくあるのか？」
「あんまり聞かないですけど……でも、神様っていろいろですから一概には言えないです」
　普通の人の視界以外の所に手がかりがあるかもしれないと、刀はひとり裏へ回るとこっそり＜加速＞して空気を足場に上からの落神神社を確かめたが、屋根は歪んで苔生し、ところどころ草も生えているような有様で、
「うん。乗ったら絶対に屋根が抜けるな」
　ということが分かった程度だった。
「やっぱり調べるべきは中か」
　一応神域だから、と手を合わせる刀に倣って、皆も手を合わせて拝んでから、社の戸に手を掛ける。