R&R Agency：file2-01：落神伝説レポート｜リアクション

R&R Agency：file2-01：落神伝説レポート

● プロローグ

　足早に歩く革靴やハイヒールがガラス越しに行き過ぎる。
　今日は土曜日。時計は朝九時を少し回ったところ。
　朝鳥さゆるは木天蓼市内のカフェで、眠気覚ましにブラックコーヒーを飲んでいた。
　夕べはいつものごとく行きずりの男との快楽に溺れ、睡眠不足。頭は曇天のように重くて、今日をどう生きるかまで思い至らない。
　そのときテーブルの上に置いていたスマホが着信を告げた。
「……R&R Agency？　久しぶりね……」
　エージェントとして仕事の依頼だった。内容は『昔の落神様のことを調べる』というもの。
　もれいびにはなったものの、今までさほど落神伝説に興味はなかった。破滅的な人生をまっしぐらに生きているので、興味すら持てなかったというのが正解か。
　この依頼を断ることも出来た。しかし、さゆるは気怠く返事をして依頼を受けた。

「……暇つぶしにはなるわね」
　そう、これは「緩やかな破滅に至る道程の暇つぶし」。それ以上でも以下でもない。
　人通りが出てきた。
　カフェを出たさゆるは、ねこでんに乗って寝子島駅に降りる。高校生とは思えぬ熟れて荒廃した雰囲気のさゆるは、傍目には出勤途中で仕事に嫌気がさして、会社をサボることにしたОＬのようにしか見えなかった。

　森繁美術館近く、旧市街にある２階建ての古い図書館。
　その入り口に、ボブカットの可愛らしい少女が佇んでいる。
　気にせず通り過ぎようとすると、少女はおずおずと声をかけてきた。
「あのっ、Ｒ＆Ｒのエージェントの方ですか？」
「……そうだけど……あなたは？」
「私もです。スカウトされて仮契約したところです。もう一人いるから合流するようにって連絡を受けて……」
　少女――綾辻綾花は少し緊張した面持ちだ。
「ああ、そう」
　無関心気味に返事をして歩き出すと、綾花がついて来た。
「さっき同じく落神伝説を調べている御剣さんからも連絡があって、落神神社の由来についても調べてほしいそうです。いつ、誰が、どんな意図で建てたのか、何を祀るための神社なのか、図書館のほうでわからないかって」
「……そう」
「私も丁度、興味があるので、調べてみようと思います」
「あたしにいちいち報告しなくてもいいわ」
「そういうわけには行きません。情報を共有し合って手分けする方がいいに決まってます……あっ、どこに？」
「閉架の閲覧手続き」
　図書館には閉架書庫があるのが一般的だ。閉架書庫とは古くなった本やあまり読まれなくなった本を仕舞っておく倉庫のような場所である。そこに仕舞われた本を読みたいときは、司書に伝えて手続きをしなければならない。
　ペースを変えることなくすたすたと歩くさゆるの背を、綾花は小駆けについてゆく。
　さゆるが寝子島の古文書、寝子島の風土地誌、伝承、事件史、および、それらの研究論文や書籍などを司書に求めると、かなりの時間をかけて、閉架書庫からたくさんの本が運ばれてきた。
「……これ全部？」
　本好きな綾花でもあ然とする量である。
「ぜんぜん関係のないものも混ざっているかもしれない。精査しないといけないわね」
　さゆるはそれらを受け取り、奥の大机へと運んで行った。
　長い一日になりそうだ。

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