戦え！　ゴミ屋敷！！｜リアクション

戦え！　ゴミ屋敷！！

　　【テロ行為は、仕掛ける時も美しく】

　余りの部屋の汚さは、大田原いいなの心から──今日も目指していた、草薙龍八の行動調査の意思すらをも忘れ去らせてしまった。
　このマンションに、一歩。たった一歩、足を踏み入れるまでは覚えていたはずなのに。

　「……うああ！　もう堪えられぬわぁっ！！」
　その余りの汚れっぷりに、怒りと共に手に手を取り合って、耐え切れなくなったいいなの心拍数は軽く100を超えた。

　初っ端から大田原いいな──ろっこん発動。
　能力は２０前後の女性への変身。発動条件は心拍数が100を超えること。　

　「美和殿はどこじゃーーーッ！！
　一階も見たぞ！　あれは美和殿のごみじゃろうてーーー！」
　そしていいなは、その姿のまま、鬼人の如く怒りながら、堪え切れずに美和先生を探しに廊下に飛び出していったのだった。

　そんなことが起こっているとはつゆ知らず。龍八は今の洋室で、今日すべき事を頭の中で纏めていた。
　今回の目的は、教師の部屋からの直接コネクションによる悪事の限りを尽くした情報収集。情報如何では、今まで見れなかった学校のネットワークの深部まで潜り込む事も可能かもしれない。

　「草薙くん……女の人見なかった？
　木天蓼大学から来てくれた卒業生の子だと思うんだけれども……もう居ない？」
　半泣き声で、柱の影から先生が覗いて来た。さっそくカモが葱を背負ってやってきたというところか。

　「知りませんね。
　ところで先生、散らばっている重要書類を一つにまとめたいと思うので、特にＰＣ系の資料あったら出してもらえませんか」
　「ん～、確かこの辺り……」

　どさあああっ！

　先生が引き出しを空けた瞬間。
　既に許容量を完全に超えていましたと言わんばかりの書類が雪崩のように溢れ出して来た。
　仮にも生徒の模範であるべき教師がこれとは……と、何か無性に苛立ちという名の感情が龍八の中に沸き上がるが、無言で書類を拾い上げ、冷静に本来の目的へと立ち返る。

　一旦、書類の束を先生に渡し、分別を行わせる間、その中に記載のある必要そうなアカウントらしきものやパスワードを一気に暗記していく。不明な手書きの文字列も多いが、不要なものは後から取捨選択すれば良い。

　「はい、これで全部よ」
　「美和殿、見つけたのじゃー！！」
　「きゃーっ！　お説教は、お説教は分かってるからーっ！！」

　突然の雷のように、大人いいなの声が響き渡る中、先生は書類の束を掴んだまま、部屋を飛び出していった。
　龍八には何が起こったのかさっぱりだが、これで後々の作業もやり易くなるというものだ。

　後は【テロ屋】の独壇場だった。
　予め準備してきたテーブルタップ型の録音機能を積んだ高精度盗聴器を、古くなったタコ足コンセントと容赦無く差し替える。
　無線機能がOFFになっている埃を被ったモデムとルーターを掃除しながら、設定をＯＮに切り替えて接続を確認。ハッキングソフトが余裕で入り込める環境を構築。
　ついでに、掃除をした証拠として、混線しているケーブル系を綺麗に纏め上げ、ＰＣ環境周りを拭き上げれば完璧だ。

　本来ならば、それを行う為のもっともらしい理由をもっと考えてきたのだが、完全に拍子抜けした。だが、その分成果が完璧であるならば言うべき事は無い。
　そんな事を思いながら、龍八は長居して疑われないように他の部屋へ移動した。

　……成果は片付けが完了してから、ゆっくり確認すれば良い。