戦え！　ゴミ屋敷！！｜リアクション

戦え！　ゴミ屋敷！！

　　【台所を開放せよ！】

　こうして僅かな通路から、台所の戦端は開かれた。
　最初に特攻を仕掛けたのは、猫鳴館の台所の守護者…今は正に美和先生宅の「台所の守護神」として君臨した如月庚の姿。

　「ったくみっちゃんは…しょうがねぇな…。邪魔すん……ぁﾞあﾞ？」
　台所への活路が開かれ、庚が特攻した先にはシンクがあった。……もとい、シンクらしきものがものがあった。

　本来ならば食器の洗物や包丁を扱う場であるはずのシンクの洗い場には、コンビニ弁当のゴミが山積みとなり、シンクの象徴とも言える蛇口そのものが、視界から既に消滅していたである。
　「みっちゃん……自炊しねぇの？」
　「すっ、するわよ。い、忙しくない時に……」
　言葉と共に俯く先生に、これは駄目だと頭を抱える。
　しかし、頭を抱えているだけでは始まらない。

　ここは、猫鳴館の台所の守護者。黙って帰っては守護者の名折れ。

　持参した掃除道具の中から、ゴム手袋を患者を手術する医者の如く手にはめる。
　真っ先に冷蔵庫を片付けてしまおうかと思ったが、この何時虫が沸くとも知れぬ危険な環境を放置する訳にもいかない。

　幸いにして、冷蔵庫を前にして同じく寝子島☆美食クラブの同胞とも言える浮舟久雨が親の仇とばかりに冷蔵庫を睨み付けている。
　「浮舟、冷蔵庫は任せちまってもいいか？」
　「言わずもがなだ、庚。代わりにシンクの方は任せた。
　……そしてこれは予想だが、そのコンビニ弁当のゴミの下には、先生が本来自炊していた頃の名残の皿と……その、もう無事では済まない水が──」
　俯きながら、予測し得る最悪の惨状を述べる久雨に、庚がついにキレた。

　「……。
　もう我慢できねぇ！　猫鳴館の台所の守護者としての実力…見せてやろうじゃねぇか！！」

　そして、ついにその豪腕を光速にも近い勢いで振るい、片付けを始めた庚の傍らで、久雨は冷蔵庫と対峙した。
　取っ手を持つ手が武者震いを起こす。
　こちらも自前の掃除道具に噴射式エタノールまで持ってきているが、それでも手が震えるのは、やはり武者震いだけでは無かったかも知れない。
　それは、未知との遭遇。
　料理を得手とする以上、ゴキブリに遭遇する事は大したことではない。
　『……ここには、未知のナニカが、ある！』
　久雨は勢い良く、その冷蔵庫を開け放った。

　──瞬間、久雨のろっこんが発動した！
　発動条件は『緊急事態や危機を察すると発動』
　効果『その場の情報や状況を基に、最も適した行動を閃く』
　その情報に基づけば、この台所には──

　「全て、全て捨てろーッ！　ここ、台所に『食品』は残っていない！」

　高らかで、現実的にも疑いようが無い久雨の宣言。柱の影からこっそり伺っていた美和先生は、柱からずり落ちるように泣き崩れたのだった。

　それからの久雨の冷蔵庫の分解掃除は見事の一言に尽きた。
　部品として洗えるものは全て洗い、乾燥するまできちんと拭き切り、エタノールスプレーで分解した部品を綺麗に殺菌。
　久雨は、中に腐り物しか存在していなかったそれを、全てを組み直し、掃除の領域を完全に超えた、部品以外はほぼ新品に近い冷蔵庫として生き返らせたのだ。

　それと同時に、庚もシンクの最下層に案の定溜まっていた汚水を流し切り。

　カチャンっ、と響く洗い上げた食器の清潔感溢れる音。
　その音は、台所に住まう者にとって、至福の鐘の音以外の何物でもなかった。

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