戦え！　ゴミ屋敷！！｜リアクション

戦え！　ゴミ屋敷！！

　　【みわちゃん先生の魔窟へようこそ！】
　
　とあるマンションの一室。開け放たれたその前には人だかりが出来ていた。
　入るなとは言われていない。むしろウェルカムと言わんばかりにドアは開いている。

　しかし、誰もが入る事をためらった。
　一番最初にこの場所に到着した八神修が、
　「これは酷い」
　と、誰よりも先に事実を口にするまで。まず15分もの時間を必要とした位であったから。

　「──しかし、誰ぞ入らねば話は進まぬじゃろうて」
　無言の圧力に応えるかのように、今居るメンバーを見据えながら、夏神零は美和先生の部屋の中に向かい歩き始めた。
　過去に事件が起きた折、零は美和先生に、若干騙し気味ではありながらも、授業の早退を見逃してもらった恩がある。
　それも兼ねて、今日は非公認部とはいえ、学生支援部の副部長として掃除に参戦しに来たのだが……

　「うむ、拙者が支援部の中では最初の様だな」
　携帯を手に、仲間に連絡を取りつつ、脳裏から『ここは部屋だ！』という概念を捨てて、マンション内についに踏み込む。
　周りからは拍手と歓声が上がる中、

　悲劇は起こった。
　
　部屋に入るには、あちこちにあるゴミのせいで必要以上のバランス感覚がいる。
　それが求められる舞を得手としながらも、片手に携帯を持っていた零は、その瞬間、確実に油断していた。
　「こちら、零。活動予定の場所に到着したでござ……」

　とんっ。
　ドザザザザザァッ！！

　さり気なく手を突いた段ボール箱の壁。
　崩れて、そこから出てきたのは、本の山、山、山。
　本の雪崩の中で、片手を携帯に塞がれていた零はなすすべもなく生き埋めにされた。

　まさか、片付けに手をつける前から遭難者が出るなんて！　色めき、また恐怖に沸き立つ生徒達。

　『夏神さんが、久保田先生のお家で遭難？！』
　「電話が途中で切れた…！これは何かに巻き込まれたのかも知れない」

　慌てて時間差はあれど、本日都合のついた学生支援部の面子も集まってくる。
　支援部長の浅山小淋を皮切りに、玄関口でその惨劇を目の当たりにした他６名。
　同部の御剣刀と初島優が、本に埋もれた零の救出を行う中、

　「きゅう……」
　その最中、突然、まるで薔薇の香りと共に生活してきた少女、緋紅朱赫乃が、あまりの異臭にめまいを起こして、目をぐるぐるにさせながら、その場にダウン。
　『し、しっかりしてください！』
　幼少期の高熱が元で声を失った少女、そしてその身でありながら、健気にも学生支援部の部長でもある浅山小淋がそれを慌てて支える。
　掃除の覚悟を決めてきた学生支援部の面子にすらも、この事態に明らかな動揺が広がっていく。

　しかし、

　「皆、お願い手伝って～っ！　きゃーっ」
　響く美和先生の声に、一同は顔を見合わせた。

　個別で来た学生は、覚悟を決めて中に入り、その場に取り残される学生支援部のメンバー達。
　零の救出の間にも、支援部の小淋は慌ててメモにペンを滑らせ手際よく皆に指示を出していく。
　そして、何とか本の山から引っ張り出すことに成功した後、零の「拙者は問題ないから先に……」という言葉を信じて、メンバーも一斉に散開した。

　悪臭に倒れ部屋に入れず、飾り付けや買い出しを任された赫乃が心配する中、倒れていた零の顔面から、ずるりと本が落ちた。

　本のタイトルは……『我輩はにゃーである。～愛憎劇編～』

　それは文字通り新進気鋭の若手作家が書いた、オス猫同士の性別を超えた愛憎劇を記している、これでも純粋な文学本である。
　若干、子供にはお見せできない濃厚な『いけないシーン』も含まれているが、それは作家が『表現の自由の一環である』と譲らない。

　救出されるまで、彼の顔の上に被っていた本のページには、まさにそのシーンが克明に記されていたのだが、それは誰かに言うにはちょっと躊躇われ。
　まさにほんの少しのトラウマとして、零の心の内にそっとしまわれる事となった。

　こうして美和先生のマンション清掃活動は、早々に心にナニカを残す犠牲者を出しつつも、早速幕を開けたのである。

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