寝子島へ帰ろう！｜リアクション

寝子島へ帰ろう！

　　　９

「反対反対はんたーい！！！！」
「あ、やっぱり？」
　うーん、と武道は腕を組みながら唸った。
「たっくんは帰らない！　こっちに残る！」
　光は巧の腕を掴んで離さない。
「それじゃ、光くんも一緒に帰るのはどうですか？」
と美咲紀。
「いかん！」
　これは翡翠だ。
「俺はそれでもいいけどー」
　柘榴はついていく気満々である。
「そうだな。柘榴も翡翠も一緒に帰ればいいんじゃないか？」
　亮が提案した。そうすれば、この世界も元通り、ヴァルキリーとコロボックルだけの世界になる。
「お前たちの破壊衝動を抑えることは出来ないのか？」
　それがどうにもならない以上、連れて帰るのは危険だと遥斗は考えていた。逆に言えば、それさえ出来るならこの世界に残ることも可能なわけだ。
「うーん。……時々でも、駄目？」
「駄目に決まってるだろ」
　柘榴が精一杯妥協したが、ロベルトが却下した。
「困ったもんだねえ……どちらかが住みにくい世界なんて。寝子島からここに飛ばしたように、住みやすい場所に向かうことは出来ないのかな。――あれ？　そういえば、琥珀さんとアイリスさんのときは、誰が飛ばしたんだ？」
「ああ、そりゃあいつが死んだときのエネルギーで、だろ？　だから、俺が行くときはヴァルキリーを何体も狩って――おっと」
　武道の問いに答えかけ、柘榴は慌てて自分の口を塞いだ。傍にいるリリーやシスルたちが、憎悪の灯った瞳で睨んでいる。
「――ヴァルキリーである必要はない」
　せっかく黙ったのに、と柘榴は慌てたが、翡翠は続けた。
「雲母と瑪瑙の藍玉のエネルギーでまかなえる」
「うげっ。俺たちでもいいの？」
「味方を殺せるわけないだろう？」
「そりゃそうだけどよ……」
　柘榴が些か肩身の狭そうな顔をするのに、翡翠も光も意に介した様子はない。
「じゃ、私たちが帰って、それであなたたちもどこかに行くことも可能――なわけ？」
と樹が尋ねた。
「その通りだ。もちろん、行く場所を選ぶことは出来ない。お前たちの島とやらに行けたのは、琥珀様が飛ばされ、繋がっていたからに過ぎないからな。だが、ここで三人で続けるのと新たな土地でやり直すのと、リスクに差はないだろう――いかがです、琥珀様？」
「四人」
と、光は言い直した。「たっくんも入れて四人」
「琥珀様……」
　まるで駄々っ子だ。翡翠は困り果てた。
「……僕、行くよ」
　突然、巧が言い出した。雅樹が目を丸くする。
「本気か？　お前……」
「だって。だってさ、僕、こんなに、一途に、何にもなしに、僕を必要としてくれたのって、光が初めてなんだ。だから、光と行くよ」
　そういえばこいつは元引き籠りだったな、と雅樹は思い出した。寝子島に来る前からそうだ。
　誰にも求められたことのない巧にとって、光の思いは重く、手放し難いものだった。
「たっくん！」
　光が目を輝かせ、巧に抱き付く。
　武道が嘆息し、目配せした。莉鳥が頷き、巧の背に指を突きつける。
「椎井！」
　気づいた光が巧を引っ張った。が、放出された電撃を浴び、巧はがくんと崩れ落ちて固まった。
　光は巧を抱きかかえようと、手を伸ばした。そのせいで背後が疎かになった。
　だから気づかなかった。武道がそこにいたことに――。

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