寝子島へ帰ろう！｜リアクション

寝子島へ帰ろう！

　　　２

　琥珀たちのせいで、この世界の植物は絶滅しかけていた。
　それでもヴァルキリーの本拠地周辺は、まだまだ草花が元気に、穏やかに生きていた。
　ところがその植物たちが一斉に凍り始めた、とコロボックルたちが報告してきたのである。
「翡翠（ひすい）だ……」
　誰かが呟いた。が、言わずとも皆、分かっていた。
「ど、どうしよう！！？？」
　分かっていたはずなのに、巧はパニックを起こした。何と言っても巧は、特に翡翠から憎まれているのだから仕方がない。
「落ち着け、な、落ち着けって」
　宥める雅樹の袖を掴んだまま――肉ごとだったので、ちょっと痛かった――、どうしようを繰り返す。
「取り敢えず、中へ――」
「中を攻撃されたら！？」
「そうならないよう、みんな必死で――」
「あの人本気になったら、きっとヤバイよ！　みんなで逃げようよ！」
「みんなでって、どこへ行く気だ？」
「どっか！　遠く！」
「無茶言うな……」
　一人で逃げると言わないところに、雅樹は僅かながらも好感を抱いた。が、うるさいことに変わりはない。
「椎井、どうする？」
　莉鳥は無言で巧の背後に近づき、彼の背に指先を当てた。彼女が目を閉じた瞬間、電撃が直接、巧の体に流される。
「……」
「無茶する……とはいえ、お見事」
　後遺症が残らない程度のダメージで気絶させる。特に無防備な相手には、手慣れたものだった。
「取り敢えず、中かな」
「よろしくね」
「え、俺？」
「他に誰かいる？」
　雅樹はざっと辺りを見回した。ヴァルキリーは無論、莉鳥も武道も、亮、樹、遥斗と皆、戦闘要員である。戦えないのは雅樹と足元に寄ってきたコロボックルだけだ。
「ああ、いいよ。お前たちにやらせるわけには、いかないもんな」
　あはは、と笑って雅樹は気絶した巧を担いだ。かちこちに固まっているところを見ると、【缶詰】が発動したのだろう。真っ直ぐ伸びた体を担ぐのは、骨が折れる。
「ああくそ、俺は肉体労働は苦手なんだぞ……」
「文句があるなら、あんたも同じ目に遭う？　それでコロボックルたちに運んでもらう？」
「いーえっ、頑張ります！！」
　雅樹は直立不動で答えた。

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