５月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

５月の☆ハッピーバースデー

●１日

　夜。佐藤瀬莉は自室のベッドに転がり寛いでいた。

　大きな勉強机の上にはたくさんの紙袋の山。今日誕生日だった瀬莉は、学校でたくさんの友人達からプレゼントを貰ったのだ。中身は手作りのお菓子や可愛らしい文房具など、小学生らしい、大人から見たら他愛もない物かもしれないが、瀬莉はとても嬉しかった。
　５年生から仲良くしてくれているたくさんの友人達。数が多くてＧＷに催す瀬莉のバースディパーティの招待状準備はちょっと大変だったけど、それはそれだけ瀬莉が学校で楽しく過ごしている証拠なのだ。
　瀬莉は招待状を出した友人達に、今回のパーティはドレスコードがない事を伝えておいた。瀬莉の家はいわゆる富裕層なので、かえって構えられてしまう事が多いのだ。瀬莉は自分のパーティくらいは、友人達と普段着でわいわいと過ごしたかった。

　勉強机から目を離すと、瀬莉は脇に置いていた豪奢な装丁の写真集を手に取った。それは、日本では未発売の、古今東西様々な懐中時計を集めた高精度の写真集。懐中時計いじりが趣味の瀬莉のために、両親が今年の誕生日プレゼントとして用意してくれたのだ。プレゼントを開けた時、瀬莉は思わず「これ欲しかったんだ！　ありがとう、パパ！」と父親に抱きついてしまった。
　ＧＷにバースディパーティは開くので、今夜両親は家族水入らずで祝ってくれた。毎年の事だが、両親は半分涙ぐみながら瀬莉の誕生日をお祝いしてくれる。瀬莉はそれをちゃかしたりなんかしない。瀬莉も瀬莉なりに、感慨を持って誕生日を迎えているのだ。

　瀬莉は幼少の頃、実は体が弱かった。弱かったどころか……生死の境をさ迷った事もある。
　誕生日を迎える度安堵する自分。誕生日は幼少の瀬莉にとって生存確認の日だったのだ。
　療養目的で寝子島に移り住んだ事が功を奏し、瀬莉の容態はだいぶ落ち着き、普通に小学校に通えるまでに安定した。もう瀬莉は１２歳。こんなに笑顔で誕生日を楽しめるようになるとは思っていなかったけど。

　瀬莉は手にしていた写真集を胸に抱きしめ、目を閉じた。
　本当は、薄々感づいている。自分の病気はまだ完治なんてしていない。
　１つの歯車が狂ったら時計の全てが狂ってしまうように、この体のどこかで何かが１つ、弾けてしまったら―――。

「……写真集、見ようっと！」
　ガバリと起き上がった瀬莉はクッションに背を預けると、貰った写真集を開いた。
　考えるのはやめよう。この美しくも精巧な世界に今は心遊ばせよう。少なくともまだ、私の中の懐中時計は止まらず時を刻んでいるのだから。

　夜が更けていく。１２歳になった瀬莉の、新たな時が刻まれ始めた。

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