【素敵な温泉】

　海原流脱衣真拳ミニ浴衣派は別称温泉幻覚派とも呼ばれ、海原流門派の中でも極めて特殊な流派と言えるネ。
　ミニ浴衣派は九夜泉郷のとある温泉の効能を利用し、敵に幻覚を見せ翻弄し、打ち破るのでアル！
　相対する酒浸 朱蘭がその最強の使い手にして酔酒八仙が一人と数えられる武術家であったとは、所詮モブ拳士である彼らは知らなかたようネ。


「アタシの瓢箪の中には、『湯気に当たると幻覚を見せる湯』が入っているネ！　さあ、楽しい幻を見ながら服を脱ぐアルヨ～」
　ノーブラタンクトップ派の女子が自ら道着を脱ぎ去り、オフショルビキニ派が湯に没し、スケスケランジェリー派の男子が恥辱に沈む……まさしく一騎当千の快進撃！
「……というかアタシ、普段はこんなキャラじゃなかったような。『これ以上はいけない』と頭の中の何かがささやいているような……」
　はたと立ち止まり、己が振る舞いに首を傾げたものの、
「ま、いいネ！　やるからには全力ネ、ガンガン脱がしまくるアル～！」
　特に気にすることなく、朱蘭は息をするように他門派の拳士たちを剥いてゆくのでアル。
　一方その頃。
「か、海原流脱衣真拳ボクサーパンツ派、黒葛 瑞樹！　僕だって、奥義継承を目指して戦うアル……！」
　と口では言いつつ、絶賛戦闘中な門下生たちを避けてすみっこをこそこそ進む瑞樹。
　彼も男の子アル。海原流秘奥義、『服を着てても下着だけ抜き取る拳』には興味アリアリだたりしたアルが、それはそれとして戦うのは怖かったり、ぶっちゃけメンドクサかたりするわけヨ。
　とはいえ彼のそんな判断は、実のところ正解だたアルネ。海原流門下生の中には、カワイイ男の子を脱がして楽しみたいちょぴりイケナイお姉さん拳士もいたりするアル。小柄で可憐的男子の瑞樹が見つかろうものなら、すぐにも彼は全裸に剥かれていたはずネ。
「というわけでなるべく戦いを避けつつ最短距離で、あわよくば最後に漁夫の利を狙う方向で……」
「獲物はっけ～んアル！」
「！？」
　ま、世の中そう上手くは行かないモノヨ。
「いきなり不意打ち幻覚湯を食らうネ！」
「ぶわーーー」
　こそり進む瑞樹の背中を見つけたのは、朱蘭だたアル。
　波紗ン（ぱしゃん）とお湯をかぶた途端、瑞樹の視界は歪み、
「うわぁ、なんかくらくらするアル！？」
「ふふふ、至高の幻覚に酔うがいいネ。その隙に、アタシがやさしーく脱がせてあげるアル♪」
「わ、うわ……ちょ、待つアルヨー、女の子がそんなカッコでそんなコト、いけないアル！」
　瑞樹は朱蘭の策にまんまとハマてしまたアル。
　つーかみなでアルアル言てたらわけわからんアルネ。読みづらくて申し訳ないアルが、ひとつご容赦いただきたいところアルアルヨ！



　海原流裏脱衣真拳ブラジル水着派、あるいはスリングショット派。その長がかつて語た言葉は、門下生たちに大きな波紋を広げることとなたネ。
　いわく。
「脱衣など破廉恥の極み！　裸は死ね！　そうですよね、長……！」
　愚愚（ぐぐっ）と握りこんだ拳を天に掲げ、矢萩 咲は叫んだアル。

「でも長！　なんでその割に道着がこんなに破廉恥なのだ！？
何故ブラジル水着なのだ！？　何故だー！？」
　頭を抱えた拍子に跳ねた咲の見事な豊乳は、ほとんど紐な水着からこぼれんばかり。
　つまり長は、言下にこう述べたアル。『羞恥心による背水の陣的なアレで、全力を出して破廉恥な脱衣流派を殲滅せよ。さもなくば（社会的に）死ね！』と。
　実際、羞恥に顔を真赤かに染めた咲が木刀を旋風めいて振り回し、鬼人のごとき活躍で斬り進む姿はまさに、長の慧眼だたアルヨ。
「……さすが、咲君」
「！　子夜さん？」
　姿を見せた哀坂 子夜は咲の死角へ滑り込むと、その隙を埋めながら剣を振るい、瞬く間に数名の拳士を全裸に仕留めたアル。
　二人ともなかなかのツワモノアルが、それ以上に胸元で揺れまくる双丘の大迫力には、貧乳門下生たちの妬みを大いに買ったとか。
「咲君の、剣の冴え……よほど、秘奥義が、欲しいんだね」
「えっ？　い、いや違うんだけど……」
「私には、よくわからない、けど。それほどまでに欲しいのなら、私は、手を貸すよ」
「いやっ、違うけど！　奥義はどうでもよくて、裸になりたくないだけなんだけど！」
　言い訳めいたことを叫ぶ咲を尻目に、子夜は纏った羽織を浮羽紗（ふぁさ）と脱ぎ捨て、光映さぬ瞳を取り囲む有象無象の拳士らへと向けたアル。


　海原流裏脱衣真拳、その名も図馬理、脱衣派！　道着の別なく、それを脱ぎ捨てるという行為そのものを極意とする異端の流派ネ。自ら肌を晒すは海原流に共通する兵法なれど、脱衣派はそれを突き詰めた流派といえるアル。
　引いては自らも敵も煩わしい衣服から解放することで、人の身も心も救う活人剣……それが脱衣派の志す道なのでアル！
　というあたりを子夜が理解しているかはさておき、ともかく咲にとてはこの上ない味方ネ。
「咲は秘奥義なんて欲しくない、でも全裸だなんて破廉恥なことになるのは御免だわ。つまり、優勝したいのよ。だからここは、共闘しましょう。子夜さん」
「分かっ、た。必ずや、咲君に、海原流秘奥義を、捧げるよ」
「だからいらないったらー！！」
　咲が剣を振るえば、背後を子夜の剣が薙ぐ。背中合わせとなった二人に隙は無く、攻めあぐねて戸惑う敵には咲が飛び出しビキニの紐を切断し、その背中を子夜が守り褌を斬り飛ばす……これまさに完璧な布陣ネ。
「いける……！　子夜さん！」
「ああ。咲君」
　ところで、ここは九夜泉郷。二人が足の半ばまで浸している湯にもまた、特別な効能があったネ。
「……咲、君。よく分からないけど……先ほどから、何だか、おかしいんだ。君を見ていると、身体の奥が、どこか……火照ってくるようなんだ」
「あ……さ、咲も。こんなのおかしいのに……でも子夜さんを見ていると、胸が締め付けられるよう。ドキドキして、たまらなくなってしまうわ。ああ……！」
　何を隠そう、ここは『衆合地獄湯』。
　浸かる者の心に潜む邪淫の念を増幅し、男女問わずに淫らへ堕としてしまう、別名『強制縁結びの湯』とも呼ばれる温泉なのでアル！
「ああ……子夜さんって、なんて美しいのかしら。艶やかな肌、滑らかな線……この傷跡さえも愛おしいわ……」
「咲君……君の目鼻、口……形の良い胸や、すらりとした手足……どれもこれもが、どうしてこんなにも、私の胸をかき乱すのかな……」
　寄り添い抱き合った二人にはもはや目に入らなかたアルが、周囲ではこの湯の恐るべき効能に掴まった男女、あるいは女子同士、はたまたあるいは男子同士が睦み合いを始め、その空気はなんとも桃色だたということネ。
「この感覚……私には、よく、分からない。一体何なのかな……咲君。教えてくれないかな……」
「いけないわ、咲には恋人が……ああでも、無垢な子夜さん、なんて可愛いの。もう、めちゃくちゃにしてしまいたい！」
　その後しばし、もにゅもにゅきゅんきゅんあはんいやんなアレやソレを経て。
　やがて咲が鉄の意思で子夜の身体を引き剥がし、彼女の手を引いてその場を離れるまで、桃色の時は続いたネ。
　咲は我に返り、羞恥に悶絶したということアル。