【究極的武闘アルヨ】

　──素破（すぱ）ン！！
　伊達メガネを吹き飛ばされながらも、岡瀬 靖久は真正面をまんじりともせず見据えてつぶやいたアル。
「どうしてこうなった」
「『服を着てても下着だけ抜き取る拳』！　脱がすための奥義、それは神速脱衣を更なる領域へと押し上げる鍵と見た！」
　自ら衣服を脱ぎ捨て、黒のブーメランパンツ姿へ変身した志波 武道は、言い切たネ。

「脱がすことが許されるのは、脱ぐ覚悟があるやつだけだっ！
さぁカモンカモン！　俺は来るもの拒まないＺＥ☆」
「どうしてこうなった！」
　二人の漢たちは、真剣勝負の真最中（まさいちゅう）アル。
　ココは『九夜泉郷』。
　コレは海原流脱衣真拳の秘奥義伝授をかけた馬闘流露井屋留（ばとるろいやる）へ挑む、門下生たちの熱き戦いの物語アル！！
「僕は格闘技を習いに来たはずだったんだけどね……」
　そんな中、イマイチまだノリ切れてない男、靖久はボヤいたヨ。往生際の悪いオトコネ。
「……とはいえ」
　靖久があたりを見回すと、肌も露わな男女が湯気を切り裂き飛沫をあげ、激しく対戦を繰り広げているトコロアル。
　海原流、これ即ち相手の肉体を傷つけず衣服のみを破壊する究極の活人拳ネ！　スゴイのヨ。
　イイ歳してちょと純情気味の靖久。男子（おのこ）はともかく、女子（おなご）のマブシイ裸体からは目を逸らして唱えたアル。
「あれは全員子ども……あれは全員赤子……だから裸を見ても問題ない……裸を見ても照れなくていい……」
「隙アリ！　超☆神速脱衣習得のため、勝たせてもらいます！」
　図馬（ずばっ）と繰り出す武道のケリを受けて、破ーん！！
　吹き飛ぶ靖久の衣服の下には、紫色のブーメランパンツ！！　自己暗示をかけ迷いを断ち切た靖久は、瞳を火（かっ）と見開いて、
「失礼。その奥義を男性に与えてはまずいと思うからね……全力で行かせてもらうよ！」
　いざ、本格的に戦闘開始アル！
　奇しくも両者、海原流脱衣真拳ブーメランパンツ派同士の戦いとなったネ。これは見ものヨ！
「娘をその奥義で裸にされても困るからね。僕が奥義を習得して、門外不出にして一代限りで封印させてもらうよ！」
「なんの！　俺にも負けられない理由があるんだＺＥーＩ☆」
　靖久は秘技・弾巣須手歩（だんすすてっぷ）を繰り出し華麗かつ変則的な動きからの突き突き突き！
　対する武道は後の先の構え。ブーメランパンツ派の荒行、漢誅水泳（かんちゅうすいえい）で鍛えた脚力による強烈脚撃で反撃アル！
　朱羽羽羽羽（しゅぱぱぱぱ）！
　目まぐるしい攻防が繰り広げられるも、両者ブーメランパンツは健在！　紙一重で相手の攻撃を避けているネ、どちらも熟達的腕前ヨ。
「ふっ……やるじゃなぁーい☆」
「うん、あなたもね」
　──ところで。
「ん？　これは？」
　ココは多種多様な温泉が湧く修練場。モクモク立ち昇る湯気を浴びた武道は気付いたアル。
「うおおおお……！？　おっ、俺は、俺は……！」
「！？　えっちょっと、大丈夫？」
「俺は今！　猛烈に、熱湯風呂のお約束のアレがやりたああああああいッ！！」
　二人の熱湯、ではなかた熱闘の舞台となたのは、『熱湯とろみの湯』。ややこしナー。
　湯気を浴びると、熱湯風呂でお馴染みのくだりがどうしてもやりたくなてしまうという、様式美的定番湯ネ！
　というわけで、
「落とすなよ！　絶対突き落とすなよ！」
「……フリだよねこれ？」
　そんなこと言われたからにはもちろん、靖久としては押さねばならんのでアル。お約束を違えるわけにはいかんのでアル。
「フリじゃないよ！　絶対押すなよ、突き落とすなよー！」
「えいっ」
　靖久が暗黙の流れに従て武道の背中を押すと、場射（ばっしゃ）ーーーン！！
「うおおおあああ熱っつぁぁぁああああああ！？　水！！　水うううーーー！！」
「ああっ、ちょっと待って！？　まだ決着が……！」
　湯から飛び出した武道は図度度度度（ずどどどどっ）と駆け抜けて、置いてけぼりの靖久はその後を追いかけたアル。
　『九夜泉郷』は湯量も豊富な一大温泉郷ネ。この後も色々な湯が登場するアルよ、期待するヨロシ！



　海原流の修練は過酷のひと言。毎日多くの門下生が入門しては、その厳しい鍛錬に耐え切れずに山を下りてゆくというネ。
　あまりの過酷さゆえに、技を究めんと日夜修行に励む門下生の中には、人格までも変わてしまう者もいるのだとか……？
　そんな海原流脱衣真拳のスク水派に属する若き拳士が、新田 樹アル。
「オーッホッホッホッホッ！！　奥義を手に入れて、あの子やこの子にあんなことやこんなことをしてやるわ！　楽しみねえ？　オーッホッホッホホホホ！！」
　しなる鞭が羽死（ぱし）ーん！
　樹は二十代後半の豊満な女性で、スク水にボンデージファッションを組み合わせた道着を身にまとい、武器は鞭とナイフが数本。目元にはパピヨンマスクをかぶり、獲物を求めてちろりと舌なめずり……。


　ちゅーかもう別人やでこれ！　人相変わっとるがな！　別人やがなこれー！
「海原流を極めるだなんてどうでもいいけど、人を痛めつけるのは止められないわねえ。ククク、ちょうどいいエモノがあそこにいるじゃない……いい声で鳴きそうな女（スケ）がさあ！」
　取り乱しましたアル。かくも恐ろしきは海原流脱衣真拳！　本日の樹はちょぴりアダルティな大人のオンナであったということヨ。
　秘死理（ぴしり）と打ち付けた鞭を跳び退って避けたのは、真境名 アリサ！
「ちょっと、いきなりご挨拶じゃない？」
　身をかわした拍子に、大きく揺れた胸の双丘。


　アリサは海原流脱衣真拳スリングショット派の門下生でアル。スリングショット派といえば極めて防御面積が少ない道着を纏う攻撃的な流派であり、海原流の中でも大勢を誇るスク水派とは対立が多いことで知られているネ。これは激闘必至アルヨ！
　と思たら、
「ふふん。現れたわね」
「あら。私の邪魔をしようっていうの？」
　布面積の狭いスリングショット派の道着は、ともすれば絶好（ぜこう）のカモと見られがちネ。藁藁（わらわら）と現れたモブ拳士たちに取り囲まれた二人。
　アリサは身構えて、
「おとなしく脱がされるつもりは無いわよ？」
「メインディッシュの前に、オードブルがカモネギ背負ってやってきたわけね。フフフ……残らずいただくわよ？」
　樹も鞭を打ち鳴らして、臨戦態勢アル。
　目の前のライバルを前に、ひとまずの共闘体制を敷いた二人は有象無象のモブどもを迎撃！
「オーッホホホホ！　私を脱がそうだなんて、百年早いわね！」
　樹はまるで手足のごとくに鞭を操り、モブ拳士の足を絡め取て払い、倒れたところへ朱羽（しゅぱ）んとナイフを投擲！　ブーメランパンツを鋭く切り裂いてしまたアル。さらには逃げ出した男の後ろから、躊躇ナシ・禁断の金的蹴り！
　もちろん、アリサも負けてはいないアル。
「脱がせていいのは……脱がされる覚悟のあるヤツだけよっ！！」
　海原流脱衣真拳に沖縄空手を組み込んだ複合技で、前蹴り、突き、回し蹴りの流麗な連続技が炸裂！
　破！　破！　破破破破破破！（ぱ！　ぱ！　ぱぱぱぱぱ！）　スク水にビキニ、ブーメランパンツに褌、二人が攻撃を繰り出すたびにありとあらゆる道着が弾けてゆく様は、まるで花咲くがごとしネ。
　そして、跳ね上がる飛沫、立ち昇る湯気。奇しくも二人が足を浸すこの温泉はその名も図馬理（ずばり）、『エッチな気分になる湯』！
「ああンっ……なんだか、身体が火照ってきちゃったわ……！」
「ハアハア。み、みなぎってきたー！！　全員マッパに剥いて、私の気が晴れるまで殴り倒してあげるわよ！！　オーッホッホッホッホ！！」
　破！　破！　破破破破破破ーーーン！
　海原流の極意……その一つは、誰もがその身に秘めている究極の生命エネルギー、絵呂素（えろす）を自らの力へと変えることなのでアル！
　あふれる絵呂素パワーを己のものとした二人を前に、アイヤー。哀れモブたちは、もはや逃げ惑うばかりであったネ。