【煩悩パワー！！】

「おっ！！　ぱああああああいッ！！」
　図度ン！！　冴木 竜司が叫べばその身体能力は跳ね上がり、駆け抜ける衝撃のみでルーシー・R・マクミランのスリングショットを引き裂くほどの強力無比と化すのでアル。
「女子の全裸が見たい！　おっぱい揉みたい！！　お尻なでなでしたァァァいッ！！！！」
「うむっ、素晴らしき煩悩！　素晴らしき信念よ！　これは我も、気合を入れねばなるまいのう……！」


　ルーシーの道着はもはや胸と腰に葉の一枚ほどしか残ておらず、全裸敗北は時間の問題ネ。
　だからこそ、
「ふんぬッ！！」
「っうおおおお！？　なんて威力だ！？」
　ルーシーの繰り出す拳は温泉を鋭く走り抜け、湯を真二つに割てみせたアル。
　闘いの間に移動した彼らが行き着いたのは、脱げば脱ぐほど、道着の面積が小さくなればなるほどに己が強化されてゆく、『背水の湯』！
　対する竜司の蝶仮面もまた吹き飛び、レインボーストッキングは半ば破れ、褌も今や風前の灯。絵呂素を叫び、絵呂素を拳に乗せ放つ一撃はルーシーのそれとも拮抗し、両者が放つ闘気は空気を震わせるほどであったネ！
「エロと愛が俺を強くする！！　まゆ先生っ、俺に力をおおおおおお！！」
「我が美の前では想い人への愛などかすむであろう！　存分に見よ！　打ち震えるが良い、究極の美にッ！！」
　ぶつかり合う技と技、地は揺れ湯飛沫は跳ね飛び舞い上がる……そんな中。
「心頭滅却……心頭滅却だ……」
　動くたび度留ン、馬留ンと毬のごとく跳ね回るルーシーの胸に、響 蒼留人は念仏めいて唱えていたアル。
「好き勝手やってくれるな。だが、俺も退くわけにはいかない。勝負とあれば勝ちに行くさ……」
「おいおい、あんまり気合入れんでくれよ～？　男に脱がされるのは勘弁だぜぇ。ＢＬは趣味じゃないんでな」
「うるせええええええ！！」
　心頭滅却どこへやら。蒼留人、乱入！　彼もまた、熱い心を持つ武人なのでアル。
　竹刀が風を巻き込み唸りを上げ、一閃！
「ひゃん☆」
　ルーシーの胸に残った僅かな布がめくれ上がり、千裸理（ちらり）。蒼留人は咄嗟に目を逸らして直視するのは避けたアル……律儀な男アルナ。
　そんな蒼留人へ、ルーシーは追い打ちをかけるように、
「フフ……そなたもなかなかやるではないか。それでこそ我と秘奥義を争う者よ」
「いや、それはわりといらないんだが」
「ところで、我のおっぱいはどうか？」
「ぶふぅっ！？」
　布をめくて自分から見せつけるルーシー。蒼留人は思わず噴き出したアル。
「どうだ、綺麗であろう？　美しいであろう？　可愛いであろう？　ん？　見ても良いのだぞ？」
「し、心頭滅却だ！　心頭滅却、滅却滅却……」
「おっぱいに隙ありィィィィィィ！！」
　二人の間を走り抜けた竜司。衝撃に不留ン（ぷるん）と揺れたたわわな乳に、力強く拳を握り締めたネ。
　見られてナンボなルーシーはもちろん恥じ入るそぶりもなく、ついには叫んだアル。
「ぬおおおお、我はもう我慢できん！　こんな布っ切れで隠していられるか！　我の身体のどこに隠すべきところがあろうかッ！」
　実のところ。この背水の湯にはもうひとつ、とある効能があたアルヨ。
　つまり、
「見よ、我が美の全てをーーーっ！！」
　浸かりすぎると、自ら衣服を脱ぎたくなてしまうのでアル。
　ついに自分から全裸のスポポンになり、最後の枷、最後の良識を捨て去り究極の露出へと踏み込んだルーシー……もはや歯止めは利かないアル！
「うおおおおっ、やったぜ！！　おっぱあああああああああ」
「み、見てないぞ。俺は見てない！」
「うむっ、こうしてはいられん！　我が身体を秘匿するは罪、もっと多くの者に披露せねば！」
　言うが早いか。主多多多多（しゅたたたたっ）！！
「待っておれ、我が美の信奉者たちよ！　今行くぞーーーっ！！」
　ルーシーは観客を求め、あんなところやこんなところやあれやこれを湯気に放り出したまま、全力で走り抜けていてしまたアル。ここ温泉だからまだ許されてるとこあるアルが、あの勢いのまま公道とかに飛び出さないよう祈るばかりヨ。
「……？　あれっ。ルーシーちゃん？　お尻なでなでは？　おっぱい揉み揉みは……？　これからなのに……あれっ？」
「本気でやるつもりだったのか。もはや痴漢じゃないか」
　歩津ん（ぽつん）。呆然としたのは、取り残された竜司と蒼留人アル。
　思わず顔を見合わせ、把亜（はあっ）と深いため息をついた竜司。しょんぼりした様子で言たアルヨ。
「なーんか、やる気なくなっちまったな……はぁ～あ。どーする？　俺たち男同士だけど、戦う……？　ああ、君はもともとソッチの趣味なんだっけ？　仕方ねぇ。もはや戦うのも億劫だし、負けを認めるよ……存分に俺のレインボーな道着を脱がしてくれ。でもお触りだけはカンベンな？」
「だっ……誰が触るかあああああああああ！！」
　武血切れた蒼留人の竹刀が唸り、
「ぐへぁ！？　ちょっちょっまって、叩くのは服だけに……」
「だぁーれがＢＬ好きの腐男子だぁ！？　色物趣味の男好きだとか抜かしたのはどの口だ、ああ！？」
「いや俺そこまで言ってな」
「ＢＬなんて、消えてなくなれええええええ！！」
　怒犠矢ン（どぎゃんっ）！！
「どいひ～～～～～～！！」
　空を横切り、虹色に輝く星となた竜司。
　蒼留人は背水湯の効能で自ら道着を引き千切りながら、虹色の星を眺めてつぶやいたアル。

「……普通の温泉に入って、ゆっくり癒されたい……」
　そんな願いも空しく、蒼留人はこの後に数十人のブーメランパンツ派イケメン男子門下生とくんずほぐれつの大激闘を繰り広げることになたアルが、その話はまた別の機会に。