「あらあら、手が足りないわ。だれか板書を手伝ってくれないかしら？」
「はいっ！　私、単純作業は得意です」
　というわけで普堂 しおりも、白沢 絢子先生のお手伝い。続々と手が挙がる３組の各委員たちの名前を、さっそく張り切って黒板に書き出していく。
　まず風紀委員には、雪見 大福、佐久間 堂鉄、カスク・クーパースの３人が決定した。
「小市民な自分でも微力ながら何かこの学校の為になる事をお手伝いしたいと思ったからです」
　と佐久間堂鉄が優等生発言をすれば、
「この学校の制度とかがまだよく分からないけど。
　楽しそうなことならやってみるのもいいのかな、にゃはは」
　とその横で笑うカスク。風紀委員がなんで面白そうなんだろ、と雪見大福は訝しむが、この赤毛の小さな同僚には、何やら魂胆がある様子？
　保健委員には、雨崎 荒太郎と、栖来 衣夢の２人が手を上げた。
「私今一人暮らしだから、怪我とかしたら自分で応急処置しないといけないからね」
　と、ちょっと打算的なのは、栖来衣夢。
「保健委員になったら、病気や怪我した人を保健室に運んだときとか、
　保健委員会での話とかで、応急処置のやり方等を見せてもらえると思うから。
　あ、でもやるからにはやるべきことはしっかりとやるわよ」
　眠そうなのに鋭い眼光で、淡々とそう述べて着席した。
　美化委員には、椿 美咲紀、安田 恵の２人が就任する。椿美咲紀の方は、
「植物とか好きなので、季節に合わせて教室にお花を飾れたらいいな、って思ったの」
「あら椿さん。このデイジーの花は、ひょっとしてあなたが？」
　白沢先生が、黒板の脇の机の花瓶を指し示した。
「寮の庭で育ててるからそんなに立派な花じゃなくてごめんなさい」
「いいえ、春らしくって、とっても可愛らしいと思うわ。先生うれしい」
「ボクも、お掃除は入学式の日からやっていました」
　と安田恵も、立候補の動機を説明する。
「ボクは綺麗好きですし、トイレ掃除も得意ですので。
　頻繁に使う場所だから、みんなが嫌がるお掃除を率先してやっていきたいんです。
　こんな姿なので、入ってきた人たちはびっくりしましたけどね」
　そう言う恵の格好は、スカートパンツルックに、キュートなしましまのニーハイだ。
「こう見えても、ボクは男の娘ですからね。
　少しでもキレイな、気持ちのいい学校に出来ればって思います」
　そして図書委員は、桜崎 巴と、秋月 かなたの女子２人が立候補した。
「学生らしく読書に勤しみ、見聞を広めたいと思いまーす」
　桜崎巴の図書委員志望には、ちょっと教室がどよめく。何しろこの彼女、常にシガレットチョコを愛用し、スカートはどこのヤンキーかと思うほど、時代錯誤に長いのだ。そんな巴が、図書委員？
「私も図書委員に立候補するわ。
　それ以外の委員には向いているとは自分でもあまり思わないし、
　本を読むのは嫌いではないから」
　秋月かなたの方は淡々とそれだけ言うと、白沢先生に図書委員の仕事を質問する。仕事の内容は、すぐに把握するに越したことはないのだし。
「そうね……、本の貸出と返却の対応、それに蔵書の整理かしら。
　主な仕事はこんなところだと思うけど、他にも委員になった生徒が自主的に考えて、いろいろやってるみたいよ。秋月さんも何かアイデアがあったら、自由に提案してみたらいかが？」


　こうして、それぞれの委員の信任も済み、白沢先生の締めの挨拶となった。
「委員になった皆さんは、おめでとう。みんな希望の役職に付けたようで、よかったわね。
　クラスのみんなも気が付いたら、出来る範囲でいいのよ。委員の皆さんをいっしょに助けてあげてね……」
　さて、このクラスのホームルームも、そろそろ終わりに近付いてきた。
　白沢先生の話はまだ続いているが、ここでちょっと場面を変えて、３組の外の廊下を覗いてみよう。

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　ホームルーム中のはずなのに、こんな廊下にいったい、誰がいるのかと言えば……
「……あ痛っ！
　そんなっ、私はただお嬢様の勇姿を、一目だけでもこの目に焼き付けておこうと」
　実はまだラム・Ｍ・シャーフが、宮野 雷子に叱られ中なのであった。
「授業中に執事が来るなんて、学級委員になった僕の面目が丸つぶれだろう？」
「……はっ！？　そこまではこの不肖ラム・Ｍ、考えが至りませんでした。
　ああお嬢様、お許し下さいませ！　このあさはかな駄羊めの愚かしさを！」
「それにラムのせいで、せっかくの僕のスピーチが台無しだ。
　僕の評価が下がったらどうしてくれるの？　……この駄羊が」
「……あ痛っ！　ああっ、その冷たい目！
　さきほどのご学友様の蔑みの視線も、また素敵なものでございましたが、
　この駄羊めをお叱り下さるお嬢様のお顔は、やはり格別っ……格別でございますっ」
「うるさい、この駄羊！」
「はっ！？　お嬢様まさかそのお仕置きは（わくわく）」
　這いつくばる執事に左手をかざしていた雷子が、そのまま全力でラムの顔を殴りとばした。
「アアーーーーッ！！？（ビクンビクン）　…………でも、イイっ！！」
　すると何ということだろう。ピクピク感極まったラムが閃光と共に収縮したかと思うと、それはそれは愛くるしい羊の姿に変わったのである！
「メェ～～～～～！（はっ、これはいけません。つい、いつもの発作が）」
　それに何だろう、やけに廊下が騒がしいような。
「メェ～～！（このような恥ずかしい姿を、お嬢様以外の方に見られるわけにはっ）」
　ひとまずこの場は逃げ出そうとするラムだったが、しかしどうしたことだろう。身体が痺れて四肢に力が入らない……？
「なに、痺れて動けない？　僕は知らないよ。自力で何とかするんだね」
　ラムが変身した力と同じく、これもろっこんの能力。
　雷子の電撃系ろっこん、『Electricity Coating』の効果である。その力はまだささやかなものだったが、ウール100％の羊毛との相乗効果で静電気を倍加させ、ラムの自由を奪ったのだ。
「メェェ～～～～～！（くっ、こんな姿で見つかれば待っているのは保健所行き……？）」

　その時である、騒ぎを聞きつけ隣りの４組から、鷹司 凜太郎がやって来たのは。
「あの姿は……まさか、ラム君か？」
　羊になって廊下でピクピク痙攣しているラムを見て、これは緊急事態だと即座に判断。
　通学鞄から法螺貝を取り出すと、思い切りその御守を吹き鳴らした！
　パアアアア……
　馬のかたちに空間がくり抜かれ、廊下に召喚されたのは、凜太郎の愛馬「天河」だ！
「ヒヒィーーーーン！」
　ひらりと愛馬にまたがり、羊化したラムをすぐさま回収しようと試みる凜太郎だったが、
　バチッ、
「痛っ……！」
　ウールに帯電した静電気がスパークを起こし、馬からラムを落っことす。
「メメェ～～～～～（あ～～れ～～）」
　しゃっしゃかしゃーーーーーーー。
　そのまま仰向けに四肢をじたばたさせながら、逆方向に廊下を滑走していく羊ラム……。
「しまった、戻るんだ天河！」
　棹立ちの愛馬をＵターンさせ、あわてて凜太郎もそれを追いかけるのだったが。