予鈴が鳴った後の廊下には生徒の姿は無い。
　けれど教室からはうるさいくらいに、生徒たちの騒ぎが漏れてきている。
　机や椅子ががたがた動く音。
　わぁんとひとかたまりに溶け合った話し声と、突然弾ける爆笑。
　いつもと同じ、寝子島高校のフツウの日常だ。

「それにしても、今日はひときわ賑やかですね」
　１－１の担任であり１年生の学年主任でもある島岡 雪乃がおっとり言うと、並んで歩いている１－４担任の久保田 美和が、そりゃあね、と笑った。
「このホームルームで学級委員を決めるって言ってあるから。なりたい子は立候補の演説考えたりして盛り上がってるだろうし、なりたくない子は誰かに押しつける算段してたり、他の委員がやりたいんだーって主張して牽制してたりで、いろいろと賑やかなのよ。まあ生徒にとっても担任にとっても、誰が学級委員になるのかってのは学級経営にとって結構大きなポイントだから」
「そうなんですか？」
「学級委員によって、クラスの雰囲気が変わるなんてこともあるし、何より、よく動いてくれる委員だと担任が楽できるのよ」
　美和は楽しみだと笑っているけれど、新人教師の雪乃にとってはこれが初の学級委員選出だ。
　寝子島高校では学級委員の任期は１年間だから、今回選ばれた生徒がずっと１－１の学級委員ということになる。
　ちゃんと決められるのか、どんな子が名乗りを上げるのかと、かなり不安そうな様子だ。
　けれどそんな不安を、美和は笑い飛ばした。
「大丈夫よ。まあ、それらしい子が委員になってくれたら楽出来るけど、いかにも不向きな子がやってみたら案外面白かったなんてことだってあるし。それで決まった雰囲気を楽しめばいいのよー」
「そういうものなんですか……」
　美和の励ましに、雪乃は少し表情を緩めた。

　と、背後からばたばたと大急ぎの足音が駆けてくる。
「みっちゃん先生、おはようアルー」
「こら、畑中さん、廊下は走っちゃダメよー」
　美和の注意に、
「ごめん、でも遅刻寸前、緊急事態アルよ！」
　と悪びれずに畑中 華菜子は２人を追い越し、セーフ、と１－４の教室に飛び込んだ。
　その途端に本鈴が鳴る。
「また仕込みを手伝っていたのかしらね」
　美和の言葉を雪乃は繰り返した。
「仕込み？」
「ああ、畑中さんの家はラーメン店なのよ。お店の手伝いもよくしてるみたいねー」
「久保田先生はもう生徒の家庭環境まで掴んでいらっしゃるんですね」
　入学式からまだ数日しか経っていないのにと、雪乃は美和を見直す思いだった。
　自分も負けてはいられない。
　それにはまず、この委員選出をきちんとこなさなくては。
　そう心に決めて、雪乃はお先にと美和に軽く頭を下げて１－１の教室に入っていった。


　教室の教壇に立てば、日直が号令をかけてくれる。
　……はずなのだが、今日に限って一向に号令がかからない。
　雪乃が困ったように教室を見回していると。
「ん？　何か用か？」
　椅子の背にべったりともたれていた背中を垣根 瞳にツンツンと指先でつつかれ、吾妻 優が振り返る。
「吾妻さん……日直……あなたですよ……」
「え、俺？　メンドくせぇなぁ……」
　面倒だから忘れてた、と優はやる気ゼロの様子で呟いたが、それでも仕方ないかと号令をかける。
「きりーつ！」
　がたがたと椅子を鳴らしながら、１－１の生徒たちが立ち上がる。
「きをつけー、で、礼ー」
「おはようございます」
　ばらばらと不揃いな朝の挨拶に、雪乃もおはようございますと挨拶を返した。
「着席。あー終わった終わった」
　号令にあわせて着席した生徒たちに微笑むと、雪乃は黒板にチョークで大きく文字を書く。

　　　「学級委員選挙」

担当ゲームマスター

マスターコメント

サンプルアクション（1）

プレイヤーの目的・意図

うちの子に学級委員をやらせてみたい

キャラクターの目的・理由

学級委員かー。あたしでもなれるかな？　よし、思い切って立候補してみようっと。

キャラクターの行動・手段

【寝子島ねここ】【落選したら美化委員希望】

選挙が始まる前から、１人で唸って立候補しようかどうか悩んでた。
立候補を募りだしたら、ちょっと迷ったあとに思い切って勢いよく手を挙げる。
「はいはーい、あたしも立候補します！」
いつもより言葉が丁寧なのは緊張してるから。実はこういうのに立候補するなんて、はじめてのことなんだよね。選挙中はずっと緊張してると思うから、言葉遣いはですます調のまま。自己アピールの時もね。
「あたし、あんまり頭良く無いけど、このクラスが楽しい場所になるようにがんばっていきます。学級委員というか、パシリだと思って、みんなのために駆け回るつもりです。良かったらあたしに清くなくてもいいから１票をお願いします！」
小難しいこと分かんないから、アピールは短く。でも元気いっぱいの大声で。

もし学級委員になれたら、椅子を蹴倒す勢いで喜ぶよ。この時にはもう言葉遣いはいつも通りだね。
なれなかったら残念だけど、委員になった子によろしくね、って挨拶しよう。委員になれなくても、あたしはこのクラスのためにがんばっていくつもりだよ。

サンプルアクション（2）

プレイヤーの目的・意図

保健委員は心のオアシスだ！　ということでＰＣを保健委員にしたいです

キャラクターの目的・理由

学級委員なんて無理無理無理。でも保健委員はやってみたかったのよね。

キャラクターの行動・手段

【寝子ねここ】【指名拒否】【保健委員希望】

学級委員選挙にはあまり興味がなかったりするのよね。
だから選挙中は、熱心でない様子で皆のアピールを聞いてるわ。内容よりもやる気重視ということで、元気そうに見えたねねこさんに投票するわね。投票用紙の真ん中に、小さく丸っこい文字で寝子ねここと記入するわ。
まず大丈夫だとは思うけど、先生からの指名なんてことになったら、前の人の陰に隠れて先生からの視線をかわす作戦を決行ね。目を合わせると危険だわ。
保健委員の選出になったら、うってかわって積極的に、さっと一番目指して手を挙げるわよ。これが保健委員としてのわたくしの第一歩。颯爽とね。
「わたくしが保健委員になったら、体調を崩した方の連行は任せてちょうだい。完璧にかつ迅速に保健室に強制連行するわよ」
髪をかきあげるキメポーズでアピールすれば、きっとわたくしの保健委員としての印象は皆の胸に焼き付くはずよ。

サンプルアクション（3）

プレイヤーの目的・意図

委員とは無縁なＰＣだけど、クラスでの立ち位置は示しておきたい

キャラクターの目的・理由

学級委員選挙？　今日だっけ？　ま、立候補なんてする酔狂な奴をおがませてもらうか

キャラクターの行動・手段

【寝子ねここ】【指名拒否】
先生の説明を聞いて、「ありゃ、選挙って今日だっけ？」と素っ頓狂な声を上げる。先生の視線を受けたら、悪ぃ忘れてた、と笑ってみせるぜ。そういやあ、そんな話を聞いたような気もするが、オレとは関係ねぇもんなぁ。覚えてるはずねーって。
候補者たちの様子は面白く見させてもらうぜ。こいつどんな奴なんだろうって人を観察するのは、オレの趣味みたいなもんだからな。
表情、仕草、細かく観察だ。
学級委員もそうだが、他の委員に立候補するクラスの奴らには、呆れ半分感心半分の目を向ける。話してくれそうな奴がいたら、
「なんでこんな面倒なもんに立候補なんてするんだ？」とか、聞いてみたいな。オレにはさっぱり理解できない心境だからさ。話してくれた奴には、「ま、世話になることもあるだろうから、よろしくな」とでも言っておくか。
委員自体には興味はねえけど、候補者の方には興味があるから、選挙の間はそれなりにマジメだぜ。といってもオレのくだけた態度がマジメに見えるかどうかは知らねーけど。
全部終わったら先生の肩でも叩いて、「おつかれさん」と声でもかけておくか。

サンプルアクション（4）

プレイヤーの目的・意図

雑用してるのが一番らしいから

キャラクターの目的・理由

……ん、手伝おうか？

キャラクターの行動・手段

【指名拒否】
投票用紙を配ったり、開票したり、票数を数えたり。
そういう細かい仕事、良かったら手伝おうか？
雑務は気にならないほうなんだ。
投票箱とか作る？　あ、僕はいつもマイ工具箱持ってるからそれで。
誰か投票箱に絵とか描いてみる？　いなけりゃ僕がそっけない字で「投票箱」とだけ書いとくけど。
工作大好きだから、真剣に投票箱作りすぎて、アピール全然聞いてなかった……悪いけど投票は棄権させてもらうよ。うん、このクラスのメンバーなら、誰がなってもいいと思うしね。