つつもすすはらいて｜リアクション

つつもすすはらいて

「やだ、遅れちゃったわ。待たせたわね！」
　そこに更なる援軍が現れる。鍛え上げられた見事な体躯を持つ尾鎌蛇那伊だ。彼もまた中国拳法の使い手である。四人の戦士が揃ったところで、晴海飛鳥はのど飴を口に放り込み、次の援護に備えた。エレノア・エインズワースは死角からの足止めを。神無月ひふみはあおいのスタミナ切れを狙い、一対一の戦いを挑むつもりだった。
「次から次へと、羽虫のようにうるさい奴ら。お前たちは決して生かして返さん！」
つつもがそう言った途端、長い黒髪がうごめき、黒い槍となって襲い掛かった。
「では、私は裏方として貢献しましょうか」
木々を縫い、大きく回りこんでエレノアは攻撃力を失った逆巻天野に近づく。再度片足を『ネヴァー・パーツ・ラヴァーズ』で固定し、乱戦に紛れて一気に駆け寄る。反応した天野よりも早く、前に出た手を取って返し、背に回る。そのまま肩を極めて倒すと、頭から櫛を抜き取った。途端ぐったりとする天野をどうしたものかと一瞬考えるが、結局エレノアは彼を引きずって木陰に戻ることにした。
「ここなら大丈夫でしょう。それにしても、この櫛は……」
漆は細かくひび割れており、古い品とは分かるものの、かつては質のよい名品であったであろうことが伺えた。歯の部分にまで精巧な牡丹の蒔絵が施されている。
「どれほど大事にされ、どれほどの情念が込められてしまったのか。その末路がこれならば、哀れと言うべきでしょうか。それとも」
エレノアは小さく笑みを浮かべ、櫛を懐にしまった。そして再び森の中から戦場を伺う。彼女にはまだ、少女妖怪の真実を見極めるという関心事が残っているのだ。

　この戦いは、攻撃が届く距離において妖怪つつもに絶対の有利があった。しかし、新井すばるのろっこんはその限りではない。彼のろっこん『ちくわ☆ビーム』は遠く離れた場所からでも対象を狙い撃てる。
「っとっと……とはいえ、あんな小さなものを狙うのは難しいよ」
すばるの狙いはつつもや、操られた人間の櫛だ。敵となった者すべてに共通する、髪に挿された櫛を何とかできれば、勝機があるはずだった。『ちくわ☆ビーム』は持つちくわのサイズでビームの強さが変化する。手加減用と本気用、二つのちくわを用意して、すばるは死闘に挑んだ。ちなみに本気用のちくわは、通常販売はされていない、腕より太いジャンボサイズで、今はアームウォーマーのようにすばるの腕にはまっている。
「肘を曲げたらちくわが折れちゃうな。左腕は使わないでなんとかしないと」
花梨が大きくジャンプし、つつもの髪に切りつけた。中ほどから切られた髪はたちまちかき消え、新たな髪が生えてくる。氷華・クルバトフがすばるのろっこんに似た、氷結の力で髪の攻撃を封じるという技を見せていたが、これに対してつつもは自ら髪を引きちぎる荒業で応戦していた。
「火が得意な人なんかも来るんだろうな。取り越し苦労かもしれないけど、神社に燃え移ったら冷凍消火しないと」
いくら作戦とはいえ、昔からある由緒正しい社が失われるのはもったいないと思った。
「それにしてもすごいな、あの髪。連続攻撃、リーチは最長、いくらでも再生可能かぁ」
すばるは遠距離から戦いの様子を観察する。つつもの髪は、動きこそ自在ではあるものの、おおむね三方向に伸びては、次の狙いを定めると言うパターンにのっとっているようだった。
「よし、１、２、３、４……四拍子で攻撃だね」
つつもの髪が三つの対象に飛んだ瞬間を狙って、死角から冷凍ビームを放つ。毛先を縫いとめられて、つつもの体がほんの少し傾いだ。それをチャンスとして、前衛部隊が切り込んでいく。幸いすばるの居場所はまだ悟られていないようだ。
「うん、いいみたい。単発じゃカエルの面になんとかだけど、動きを封じるのに役立ちそうだ」
すばるは何度かビームを放ちながら、狙いを補正していく。最終目標はつつもの髪を最後まで飾っている大きな櫛だ。狙いをつけながら、すばるは少しだけ回想をする。
（そういえば、前にこの神社掃除したなぁ。恩に着せるわけじゃないけど、神さま、ちょっと背中を押してくれると助かるなー）
「あんただって困るだろ、こんなじゃ……さっ！」
左腕の巨大ちくわから、極太冷凍ビームが放たれる。すばるは安全な位置からビームを放ち続けるのではなく、果敢にも機を狙ってつつもの懐に飛び込もうと計画していた。

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