オニハ　ウチ｜リアクション

オニハ　ウチ

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　日課になっているゲーセン通い。
　今日もやっぱり学校帰りであるため、いつものように手慣れた動作で瞬時に巡回の先生などがいないか見渡してから、仙藤蒼は足早にゲームセンター『BooM』の中へと入った。
　一通り見て回って、特に新作ゲームが無い事を確認すると、暫し考えた後蒼は先日プレイしたガンシューティングの筐体へ向かう。
　まだまだ出たばかりのコレ、前回に蒼がハイスコアを叩き出してからまだ誰も超えていない様子を、時折流れる数字のスクロールから見てとって。
　ならば挑むのは自分自身。
　常に高見を目指すべく、もはや流れる動作でガンコントローラーを持ち、足元のペダルに体重をかけた。
　以前秋葉原でそれなりに規模の大きなゲーム大会にて、大人たちに混じり２位という地位を獲得した蒼の腕前や姿は知る人には知られているようで、時折蒼の背後でチラチラと気にするような視線たちが通りすぎたり。
　そんな視線たちを一向に気にしていないのか、集中し過ぎて全く気付かないのか、蒼は躊躇う事無くスタートボタンを押した。

　しかして。
　初っ端でいきなりダメージを食らい調子を崩したのだろうか。
　クリアするどころかあれよあれよと一方的に画面に映る魔物たちからボコボコにされ、時間にすればものの数分でゲームオーバーのテロップが流れていた。
　中には意外そうな視線を飛ばす野次馬もいる中、一番驚いているのは蒼自身である。

「……はあ、なにこれ？」

　むしろろくに見た事の無い『ゲームオーバー』の文字に、思わず面食らったがとりあえず深呼吸して切り替える。
　――　きっと今日はこのゲームって気分じゃなかったんだね、それじゃ次行ってみよう！
　持ち前の前向きさで、さっと筐体からどいては気分転換もかねて音ゲーコーナーへ足を運んだ。
　が、どうしたことか。
　いつもはどんな難しいリズムにも狂う事無くノリ良く動く手足が、どこか重く、どうしてもワンテンポ遅れてしまうのだ。
　チャレンジ精神から、あえて聞き馴染みの無い曲を選んだからだろうか……と、やり込んだ好きな曲へ変更して挑むも点数はやっぱり伸びなかった。

　その後も、どうしても普段の腕前を取り戻したくて様々なゲームジャンルに手を出してみる蒼。
　しかし、パズルであろうとシューティングであろうと、やれば負ける状態が積み重なるばかり。
　それでもムキになった勢いで、対戦型格闘ゲームの台でちょうどプレイしていた大学生に対戦を申し込む。
　ここの常連である蒼の腕前を知っていたのか、相手がセーラー服な中学生である事を気にする様子無く、
　相手は快く受けて立ってくれた。
　揮霍撩乱の如く手を振るい、鬼気迫る指さばきで蒼はボタンを操作する。本来の自分を取り戻すべく。
　だが案の定……ささやかなミスで瞬殺されあえなく惨敗となった。

　――　明らかに何か変。
　今日だけであまりの醜態たる戦績、どうして落ち込まずにいられようか。
　いったいなぜこんなに下手になったのか……まさか今日だけでなく、明日も明後日も、この先ずっとだったらどうしよう。
　すっかり精神的にまいってしまえば、呆然とした表情で立ち上がる。
　それでも、相手をしてくれた向こう側へ『ありがとうございました』と礼儀を忘れないのは、蒼の心の真っ直ぐさであろう。
　いつの間にか夕焼け色が店内に差し込む、そんな橙色の方へトボトボ歩いて行く蒼の背中へ、誰かがそっと呟いた。
　『鬼の霍乱』と　……。