オニハ　ウチ｜リアクション

オニハ　ウチ

　警察署であれやこれやと事情聴取を受けていた楡宮遠海。
　立ち寄ったコンビニで、まさかの強盗に遭遇してしまったのである。
　それ程時間経過せず、すぐに犯人が捕まったのは不幸中の幸いではあったけれど、今日一日散々であった遠海にとっては僅かな刻といえど緊張強いられれば、もはや精神的消耗は限界にきており。
　連絡を受け、本島から迎えに来てくれた母親の姿を見た瞬間、黒玉の瞳から一滴、何かが零れたように見えたのだった。

◇◆◇◆

「ああ……誰かと言葉を交わした後の一人とは、切ないものですね」

　親切なお嬢さんを見送ってから、寝子島での仮住まいたるマンションに帰宅したアケーチ・タッマーキ。
　初めての病気からかどうにも人恋しく、横になっても瞳を閉じてみても眠れずに。
　――　うさたんもご一緒すれば良かったですかね……。
　星幽塔にてお留守番中な桃色兎さんを想うと、また一層寂しさ増して、スンと布団を被った。
　ようやく寝付いたそんな時、うっかり開けっ放しにしていた玄関から、控えめにコンコンというノック音。
　暫くして、躊躇うようにその扉が開かれて、アケーチの眠る部屋を探すように静かに歩く足音が。

　翌朝。起床したアケーチは、額のタオルと枕元に水の入ったコップを見つける。
　すっかり元気になった自身に喜びつつ首を傾げながら、とりあえず今日のお日様におはようございますをしにベランダへ出る。
　すると、お隣りのベランダからひょっこりと顔を覗かせた久保田美和と目が合った。
　にっこり微笑まれたその唇から、言葉が紡がれる。
　曰く、丁度ふらふら帰宅してきたアケーチを目撃したと。
　申し訳ないと思いつつも、一人暮らしらしいアケーチを心配し、様子を見にお邪魔したと。

「では、もしやタオルやコップは……」

　勝手にすみませんと謝罪の言葉から肯定の意を受け取れば、すこぶる嬉しそうにアケーチは声を発していた。

「いえ……いえ！　まことに、まことにありがとうございました！」

『いつも元気な明智さんが珍しいですね。ふふ、鬼の霍乱というのでしょうか』なんて聞けば、看病された記憶が無いことだけが悔やまれつつ。

「たまには鬼に弄ばれるのも良いものですね、ふ、ふふ……！」