だらだらウィルス、感染拡大中！？｜リアクション

だらだらウィルス、感染拡大中！？

●それぞれの戦い（３）

　サキリ・デイジーカッターは、辺りの様子に気は配りながらも、穏やかに口を開いた。
「寝子島は僕にとって大切な場所だ。何としてもウィルスの流行を食い止める」
「それは……僕も、同じ気持ち」
　一緒に戦うよ、と、恵御納夏朝が口元を引き結ぶ。
　サキリは夏朝へと微笑を一つ向けると、眼差しを犬杜初の方へとずらした。
「初、僕達と共闘する意思はあるかい？　良ければ寝子島のフツウを守る為、共に戦おう」
　サキリが差し出した言葉に――初は、こく、と頷く。
「……戦うのがフツウを守る為だとは、言い切りたくないけど。でも、あんた達に協力する。一緒に戦う」
　初の返事に「今はそれで構わないよ」とサキリは淡く目元を柔らかくした。
（かつて初は、クローネに与してフツウと敵対する側の人間だった）
　しかし、状況はその頃とは随分変わっている。
（一緒に戦えるのは、彼女にとって好ましい変化だと思っていいだろう）
　ふっと緩めた口元を、すぐに、ぴりりと引き締めるサキリ。
　彼には、事態を打開する為の『ある作戦』があった。
「先ず、大前提の話をしようか。一箇所に留まると、敵に包囲され、数の力で潰される危険がある」
　サキリの言葉を受けて、夏朝は、真剣な目をして声を零す。
「それなんだけど、山頂の展望台付近まで移動して応戦するのはどうかな。比較的広くて、戦いやすいと思う」
　ただ、と、夏朝は、僅かに表情を曇らせた。
　初が、不思議そうに首を傾げる。
「ただ？」
「ウィルスに感染した人達と戦いながら山を登るのは、結構骨が折れるだろうなって……」
　そっかぁ……と初が眉を下げる一方で、サキリは、どこまでも不敵に瞳の赤を光らせた。
「そう、どうせ骨は折れる。だったら……いっそ、もっと思い切りやってしまおう」
「サキリ君……何か、アイデアがあるんだね？」
　友人の意を察して、決意の色を眼差しに乗せる夏朝。
　その反応に、サキリはすっと目を細める。
「川添先生のいる旧市街から出来るだけ多くの感染者を引き離せたらベスト。これは、共通認識でいいよね？」
「うん、大元を断とうとしてる皆の、助けになるはず」
「なら、可能な限りの感染者達を引き付けよう。奴らの注意を引いて、派手に暴れる」
　どうかな？　と目線で問えば、夏朝はぐっと拳を握って応じた。
「わかった。僕も、頑張るよ。初ちゃんは……」
「……ういだって、やってやるわよ」
　夏朝達の返事に「よかった」と短く零して、
「じゃあ……そろそろ、身体を動かそうか」
　と、サキリは、２本のナイフを構え直して、茂みの向こうをキッと見据える。
「お誂え向きに、感染者達が僕らのことを嗅ぎ付けたみたいだ」
　瞬間、茂みをうるさいほどに揺らしてとび出してくる感染者達。
　ろっこんを用いて感染者の死角に回り込んだサキリが、
「刃こそ我が血肉！」
　と、情熱滾る峰打ちの一撃を感染者へと食らわせた。
　奇襲を成功させたサキリが、瞬間移動を駆使して感染者達を翻弄すれば、
「可愛いの大好きー！」
　夏朝も《パッション》を叫び、折り畳み傘を振り回して感染者達を打ち倒していく。
「叶えたい願いも、あるんだからー！」
　感染者が、１人、また１人と崩れ落ちていく中、
「ういの友達に触らないでよ！」
　と、夏朝とぴたと背中を合わせた初も、叫びながら木の枝を振るった。
　じきに、その群れは１人の漏れもなく沈黙したが、
「ここから、だよね」
　夏朝が緊張に小さく喉を鳴らし、サキリが目だけでそれに応える。
　そうして――サキリは、近くにいる全ての感染者達に聞こえるように、朗々として叫んだ。
「さあ、幾らでも相手してやる！　かかって来い！！」
　サキリが油断なくしんがりを務める中、夏朝は折り畳み傘をしかと握って、
「初ちゃん、行こう」
　と、引き寄せられた多数の感染者を誘うように、頂上を目指して歩き出した。