だらだらウィルス、感染拡大中！？｜リアクション

だらだらウィルス、感染拡大中！？

●終わりの兆し

　回転箒で感染者を薙ぎ倒して、鴻上彰尋は「あれ？」と首を捻った。
「鴻上、どうかしたか？」
「いや……何だか、感染者達が弱くなってるような気がして……」
　彰尋の名を呼んだ楢木春彦の返す肘が、また別の感染者を打ち倒す。
　そうして、春彦は「確かに」と頷いた。
　次々に扉から溢れ出ていた感染者達の『数』も、徐々に減ってきているのが窺える。
「これは、もしかして……」
「だな。いよいよゴール目前！　的な？」
　明るい声を出した春彦の拳が、鋭く風を切った。
　回転箒をぶんと唸らせて、「油断は禁物だけどね」と彰尋が言う。
「わかってるって！　……さぁ、覚悟しやがれ！」
　春彦が双眸を爛々と煌めかせるその近く、水上桜は事態が収束に向かっていることにはまだ気付かずに、
「くたばれフツウ！　私の日常を返せ！！」
　なんて轟と叫びながら、次々に残る感染者達を箒の餌食にし、教室の中央に君臨するのだった。

「先生の力になれるのならばー！」
　叫んで、倉前七瀬は感染者へと突撃する。
　弱体化された感染者達の歯応えのなさに「おっとと」と勢い余りそうになる七瀬の腕を、
「倉前、危ないよぉ」
　と、ウォルター・B先生がさっと掴んで、引き寄せた。
　シーサイドタウンの感染者達も、気付けばずいぶん減っている。
「えっ！？　まさか、もうお終い！？　ビー玉の効果が抜群すぎて、エアガンを使う機会がなかった！」
　折角準備してきたのにー！　と、しきりに悔しがるのは新田樹だ。
　それなりにスカッとしたけどまだまだ暴れ足りない！　というのが樹の感想である。
「こうなったら、残党はバリバリ撃ち抜いてやるー！　とりゃー！」
　戦場を、ＢＢ弾が宙を裂くようにして走る、走る。
　この状況を満喫しまくっている樹の姿にのんびりと笑んだ七瀬へと、ウォルター先生が声を投げた。
「君も、結構無茶をしたねぇ。見ていて危なっかしかったけど……何か、勝算でもあったのかい？」
「ん、僕は、信じとっただけです。もし感染しても、きっと先生が助けてくれると思っとったので安心でした」
　先生のチョークは痛いけん当たりたくないですけど、と、額を押さえる七瀬。
　その様子にウォルター先生は小さく笑って、
「その信頼は嬉しいけど、あんまり無謀なことはしないように」
　と、チョークではなく指先で、自身の額を押さえる七瀬の手の甲をとん、とごく軽く叩いた。

　サキリ・デイジーカッターのナイフ捌きの前に、感染者がまた１人、地に落ちる。
　展望台付近には、サキリ達に倒された感染者の山が幾らともなく出来ていた。
「これで、だいぶ役目を果たせたかな？」
「当ッ然よ！　こんな奴ら、うい達の敵じゃないし！」
　既に息を切らせている犬杜初が、それでも「えへん！」とばかりに胸を張る。
　その様子に、恵御納夏朝はそっと目元を和らげて、けれど次の瞬間、
「初ちゃん、危ない！！」
　と、ぐわと身を起こした残党が初を狙う、その目前に立ちはだかった。
　夏朝の折り畳み傘が感染者を捉えたのと、感染者が夏朝の首筋に噛み付いたのはほぼ同時。
「夏朝！」
　初が叫び、サキリが、刃物を思わせる鋭さを帯びた眼差しになってナイフを構え直す。……が、しかし。
「……あれ？　……何とも、ない？」
　感染者が倒れ落ちるその前で、夏朝は双眸をぱちぱちと瞬かせた。
　サキリが、ふっ、と軽い息を吐き、構えを解く。
「どうやら、これ以上の感染はないみたいだね。後始末も、然程、苦にはならないんじゃないかな」
「よかったぁ……もう、危ないことしないでよね！」
　初が勝手なことを言うのに、サキリと夏朝は思わず視線を合わせた。
　そうして夏朝は、寸の間、空を見上げる。
　静けさを取り戻しつつある山頂に、陽の光が、優しく柔らかく、何かの加護のように降り注いでいた。

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